07匹目 秘密道具にご用心
一晩考えて、あることに思い至った。
なぜ自分は犬として転生したのか。
どうしてドラゴンの前にいたのか。
「ふむ。その心は?」
前提が間違っていたのではないか。
これまでは、僕の願いが聞き届けられたから、この世界に転生したと考えていた。でも、少女を救うために都合がよかったから、僕を転生させたのではないだろうか。無力では困るから、フレアを使って特訓させた。そう考えるとしっくりきた。
そして僕以外にも転生者がいる。
もしくは、過去に転生者がいたはずだ。
「
気が付いたら、お爺ちゃんが立っていた。
相変わらずの神出鬼没っぷりだ。
「果実や調味料の名前が同じでしたから」
不思議に思えたのはそれだけではない。
鏡や動物の名前すら、前世と同じである。
異世界なのに、違和感がなく竜と話せる。
疑わないほうがおかしかったのだ。
「そちの前にも、多少はこちらに来ておる」
成程と笑いながら、お爺ちゃんは答えた。
農業が得意な人、剣術が得意な人、手先が器用な人、そうした様々な特技を持つ転生者が、この世界に新たな概念を生み出し、名前を広めてきたそうだ。
「犬の姿は、少女の精霊としてですか?」
ドラゴンの炎に耐え、魔法を使う犬。
これだって、どう考えてもおかしい。
「それも正解じゃな」
軽く言われたことに抗議する間もなく、お爺ちゃんは続けて話し出す。
「まだ疑問は残っておろう? 賢者には知識を。これも、前に英雄と呼ばれた転生者が欲したものじゃ。そちに敬意を表し、あと一つ二つなら答えて進ぜようぞ」
疑問は尽きないが、あと二つだけか……。
こちらが隠そうとしたり駆け引きをしても、どうせ心を読まれるのだ。どうしても知りたいことだけを絞り込み、質問を決めた。
「まず、少女は転生者ですか?」
「違う。そちが断ったら考えてはいた。儂が手を貸すことを悩んだ理由よ。あの娘は、すでに生命の
――責任重大どころではない。
僕がこの件を断れば、少女は死ぬ。
神が手助けしても、心はなくなる。
口ぶりから、本当にギリギリなのだろう。
ならば最後の質問はこれしかない。
「僕の精神に、手を加えていますか?」
「それが最後の質問でよいのか」
「そうですね。よろしくお願いします」
神である
「儂は、そちの心を操り誘導していた」
真摯な態度で「すまなかった」と謝罪したお爺ちゃんが説明したのは、ほぼ予想通りの答えだった。恨みはなかった。今更だ。
元に戻せるかと聞いてみたけれど、強固に混じり合っていて、無理に紐解けばどんな変調を
「それとな――」
そちのために用意したものじゃと、何もない空間から様々なアイテムが出現した。異空間収納というらしい。これまでも、フレアと飲む酒などを、どこからともなくポンポンと取り出していたなと思い出す。
便利そうだと物欲しげに眺めていたら、羽のついた小さなバッグを指さし「着けてみよ」と言われた。
「そちと同じ色の鞄に、竜の眷属を象った両翼をつけたものじゃ。中は異空間に通じ、どんなものでも収納させられる特製じゃよ。接触させ念じれば入り、品を思い浮かべ念じれば出る。いつかの勇者に与えたものを改良し、そちに使いやすかろう形にしたぞ」
魔法のバッグ! 物凄く異世界っぽい!
内心の興奮も冷めやらぬまま、もう一度、じっくりとそのバッグを確認した。
オレンジ色の柔らかそうな毛で出来たバッグと、白色の両翼。翼の部分は、薄い毛で覆われているが、全体的に滑らかだ。用意してもらったアイテムで、使い勝手の確認も忘れない。入るときはピュンと消え、ポワンと出てくる。カワイイ。お爺ちゃんが作ったとは思えないほど、可愛い。犬にはとても便利。
確認を終え、魔法で空中に浮かべる。
ゆっくりと前足を通し、背中に固定した。
間違いなくかわいいはずだ。
自画自賛して空中をクルクルと飛んでいたら、僕を探していたのか我が友フレアがドアから入ってきた。もちろんノックはない。
「ふん。恐ろしいものを身に着けたな」
この愛らしさに嫉妬かな?
「それは、魔王の部下程度なら生きたまま取り込める
とんでもなく危険なバッグだった。
お爺ちゃんを睨むと、サッと視線を逸らす。お爺ちゃんの目の前を浮遊し、じーっと見つめ続けたら、ようやく白状した。
「儂の力を見せつけたかったんじゃ」
切り刻まれたら自動で修復するし、盗まれても翼をつかって帰ってくるんじゃよと自信満々なお爺ちゃんを、アホの子をみる目で見てしまう。よく考えると、神とドラゴンさんはそっくりである。だから仲が良いのか。
吸い込んでも大丈夫そうなフレアとお爺ちゃんに使ってみたけど、反応しなかった。どんな条件なんだろう? 不思議だ。
――とりあえず、生物はダメ! 絶対!
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