03匹目 ドラゴンがキル
朝の目覚めは素晴らしかった。
自分の足で歩き、散歩をし、朝食を食べる。
前世では縁がなかった、当たり前の日常。
朝日を浴びて、眩しく感じる幸せ。
穏やかな気持ちで五体満足な自由を噛みしめていると、それをぶち壊すかのようにドタドタという足音と、山のような巨体が近づいてきた。
そう、我が友ドラゴンさんだ。
深紅の鱗、ルビー色の瞳、しなやかな尻尾。
思わず
今朝も美しい竜は、開口一番にこう言った。
「貴様の修練を兼ねて、これから狩りに行くぞ」
ドラゴン飯は簡単かつ剛毅だ。
生肉を用意し、火で炙り、食べる。以上。
なんとか朝食を飲み込みながら、「せめて人間の体なら、御礼に美味しい食事を用意できるのですが」と悔しがったら、修行を重ねれば魔法で人化が可能であるし、変化しなくとも人と同じような動きも出来るようになると鼻息荒く説明してくれた。
要は、とっとと成長して旨い飯を作れということだろう。
ドラゴンは不器用なようだ。そして今更、実は本で読んだ知識だけで料理は未経験ですとは言えない。失敗したら火炙りの刑にされそうだと震える。
「お手数おかけします。よろしくお願いします」
チラッと、冗談を
相手が残念ドラゴンでも、礼儀は大切である。
ドラゴンさんが本日の狩場に選んだ場所は、僕がウェルダンにされたあの場所だった。ここには獣や魔物の
――殺そうとするなら、殺される覚悟もあろうよ。
赤き竜は、そういう輩には容赦はせぬと目をギラつかせ、哀れな生贄を探しだす。獲物というには、ドラゴンさんが強すぎるからね。しかも挑戦者は、転生二日目の子犬だし。竜の威を借る子犬。ますます、そのうち用意することになる料理の失敗が出来なくなった。
そんなこんなで、目の前には一匹の野ウサギがいる。
可哀そうに、プルプルと震え、つぶらな瞳で見つめてくる。
「さあ、
僕の感傷などどこ吹く風で、竜は言った。
やれ? このウサギさんを?
無理無理無理無理!と首を振った僕に、
「しようのない奴め。手本を見せてやる」
と、なんの躊躇いもなく、ウサギさんを切り裂いた。
そして始まったドラゴンワンマンショー。
獲物を見つけては仕留め、おびき寄せては仕留め、逃げるものは追って仕留める。斬る切るきるキル。
阿鼻叫喚の地獄絵図は、僕の胃の中にあったもの全てが吐き出されるまで続き、気付いた時には鉄の臭いを充満させた獣や魔物の死骸が山と積まれていた。
「こうするのだ。では殺れ」
やらなきゃヤられる。
これがこの世界の流儀なのだろうと諦観し、心の中で詫びながらなんとかウサギさんを倒した頃には、すでに日は傾き赤い月が昇り始めていた。
「うーむ。待ちくたびれて火が吐きたくなった」
今日もこんがりとウェルダンにされた僕。
どうやら、この世界は呪われている!
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