第1章 3話 帰還
「おはようございます"魔王様"」
朝、日が差さないはずの部屋に眩い光が差す。
(まだ寝てから少ししか経ってないはず…。今日何曜日だ?水曜だったら午後から寿司屋のバイトが……)
そしてまた微睡みの中に意識が入っていく。
二度寝とは、なんと甘美なのだろう。
(いちごみたいな甘い香り……)
普段は安くて硬い枕を使っているはずなのに何故か今日は柔らかい枕で寝ている様な感覚に違和感を覚える。
(………昨日、寝落ちしたのかな?だとしたらこれ布団だ。なら柔らかくてもおかしくはないな)
スースーと深めに呼吸をしてまた意識を内側に向ける。
寝ている布団も何故だか柔らか過ぎて寝心地に慣れない。
寝返りを打つと買った覚えのない抱き枕が1つ。
(柔らかい……、それにあったかくてスベスベでなんだか硬い所も………)
「いゃぁ、あっ、ダメぇ………っ」
(動いてる??なんだこの一定のリズム……まるで心臓の音みたいな……、人の、心臓の音、みたいな………………!!??)
「はぁ、はぁっ、おはよう、ございます魔王様ぁ〜」
「はぁぁぁぁぁああ@#/&gjcdw#lsa"y!!??!」
理解が追いつかない。
いや、そもそも理解出来る空間が目の前に何一つない。
朝日が差し込む灰色のレンガ造り部屋。
天蓋付きのふかふかなベッド。
高級そうなふわふわ枕にシルクのシーツとそれから・・・。
「あの、貴女は……………??」
「ご説明は私が。お初にお目にかかります魔王様、私はこの城のメイド長を務めておりますデリカと申します。夜中お供をさせましたのは同じくメイドのサキュバスにございます。お気に召して頂けましたでしょうか?」
「はぁ?城?メイド?サキュバス……///?何がどうなって……」
右手を握っては開きまた握っては開き、青年は思考を加速させる。
今、目の前に現実はない。
という事は、ここはゲームの中なのだろう。
起き抜けの冴えない視界で自身のHPバーを探す。
「あれ??無い………」
「恐れながら魔王様。何か足りない物がおありでしょうか??」
部屋の入り口付近に控えるメイド服の女性が心配そうに首を傾げている。
「あ、いや、見えるはずのものが見えないだけでそんな大袈裟な事じゃ」
「あ、ああ!!大変失礼しました魔王様っ!!キャスリンっ!!直ちに召物を脱ぎなさい!!!魔王様の眼前で服を着るとはなんと無礼な!!」
「はっ!!大変申し訳ございませんでした魔王様っ!!!直ちに脱ぎますのでどうかお楽しみ頂けます様、お願い申し上げます!!」
そそくさと服を脱ぎ出すサキュバス。
ハラリ、ハラリと落ちて行く布達。
目線はもう布にしか行かない。
「違うっ!!止まって、とにかく服は着ててくれ!!命令でもなんでもいいから早く!!」
はっとした表情で止まるキャスリン?と怒る表情を元に戻すメイド長?のデリカという女性。
俺は、今何処にいるのだろう??
◇
「先程はお見苦しい所をお見せしまして誠に申し訳ございません。ご機嫌を損ねておりましたらどうぞ私めの首をこの"魔剣ディランダル"で落として頂いても構いません!!」
「いーから、そーゆーの。ってかそんな簡単に魔剣持って来ないでくれ」
よくわからない状況は変わらず。
わかるのは自分が何故か"魔王"と呼ばれてるという事。
そして今居るここが"城"だという事。
そして、目の前に居る2名が少なくとも従者?という者らしいという事。
「状況が掴めないな……。あの、デリカさん?だっけ?一ついいかな?」
「私など呼び捨てて下さいませ。何か御用がお有りでしょうか?」
目に掛けた黒縁のメガネを片手でクイッとあげて鼻息を荒げるメイド長。
「あのさ、僕の私物……というか持ち物ってあるのかな?あと服!」
「勿論ございます。魔王様が魔王様である証、"焔魔の神剣サラマンドラ"とレジェンドアイテムである"火焔の鎧"と"妖焔のブーツ"、そして"華火のマント"。この世に2つと無い力の象徴がこちらに」
メイド長が開けたクローゼットの中には見慣れた武器武具が一式。
やはりここはゲームの中。
そう思ったが何かが違う。
「……そうだ、メニューバーも目の前のNPCが話してるのに吹き出しが出ない!それに視覚化されてないのに僕の中にHP、MP、スキル、魔法の情報を感じる事ができる。どうなってるんだ?」
「大変申し訳ございません魔王様。魔王様が必要とされている情報が如何なる物か皆目見当も付かず……」
「いや、大丈夫だ。ならここの名前は何て言うんです?地名、城?の名前、それと……世界の名前」
「はい、まずはこの城の名から。ここは魔王城ヴェスダーヴ、かつて六大魔王の頂点であられたお方が作られた魔城にございます」
魔城。
そしてヴェスダーヴという名前。
全く聞き覚えがなかった。
「そしてこの地は魔界中央に位置する島、アストパルテ。この世界の名はゴパーダオラージュ。人間界に隣接する魔族だけの世界でございます」
ゴパーダオラージュ。
それは青年がプレイしていたゲームのタイトルだ。
ならば何処かに見知った人も居るはず。
訳もわからない状況は変わらないが何もわからない世界ではなさそうだ。
「ところで大変失礼とは存じますが、お名前をお教え願えますでしょうか?」
「あ、俺の名前は………」
昔は知らない人は居なかった名前なのになっと聞こえない声で呟く。
それを見て首を傾げるデリカとキャスリンの両名。
「カケル。妖焔のカケルと呼ばれていた」
「魔王カケル様。あぁ、新たなる魔王様。お帰りなさいませ。この地、この城、貴方様にお支えする者全ては御身の為に。そしてどうかこの世界をお救い下さいませ」
「世界を救う??俺が?魔王が、か??」
頭を垂れる両名。
新魔王カケルが救う世界とは一体………。
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