ひとつの、

こしあん

第1話 二〇五号室

 二〇五号室、僕らの城。

 朝の目覚め。交わす言葉。出かけるときの合図。帰りの連絡。きみの笑い声。眠るときは、いつも隣にいた。

 僕らは高校のときからのつきあいで、いまは一緒に住んでいる。他者を自分の私的空間には入れたくなかったけど、きみとならもっとくっついていたい。そう思える相手に出逢えたことが、なによりの神様からの贈り物だった。

 あんまり干渉しないことも、きみの優しさが生みだした長くつづける秘訣。僕にとってもありがたいものだった。

 このまま、ずっと同じように過ごしていけたらいいと思う。この瞬間、僕のなかにある想いを、きみと共有できたらいい。できるなら、いまと変わらない明日を永遠に望んでいたい。

 なに言ってんの。そうやって、きみは笑うかもしれないけど、あたりまえのように手をつないでくれる。春の日射しのような、そんなぬくもりに浸っていたかった。

 河をたどっては、いつか流れ着く海があるように。その海を未来と重ねては、いつまでも寄りかかれる肩を思い描く。あきれてもいいけど、どうか僕を放さないで。不安を強要はしないけど、きみの抱えているものくらいは一緒に持たせてよ。まえへ進んでいるうちに、いつのまにか歩幅があうような、ゆったりとした日常が僕の生きる糧。

 明日を生きるすばらしいだれかにきみが惹かれないよう、もっと自分を高めていこう。いまの自分に負けないよう、惜しむことなく努力しよう。

 このまま、きみの後ろ姿を見ることなく、地に伸びる影で背比べをしていたい。一瞬も永遠も大切に抱えて、きみへの愛を何度でも伝えるから。

 二〇五号室。ここが僕らの城。

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ひとつの、 こしあん @koshian-54

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