第3話華厳の滝

 日光へ来たら、東照宮の次は中禅寺湖方面に向かうだろうと踏んで、車をそちら方面へ走らせた。途中、カステラ本舗やコンビニにも立ち寄ったが、耳寄りな情報は得られなかった。いろは坂を通り、最初に出てくる有名な観光名所、華厳の滝の駐車場へ車を停めた。

「あれ?滝はどこにあるんでしょうか。音は聞こえますけど。」

辺りは濃い霧に包まれ、音はすれども滝の姿は見えなかった。ここは標高が高いので、霧と言うより雲がかかっているのだ。

「佐藤さん、滝はあの辺ですよ!ほら、少しずつ見えてきた!」

良平が指をさして叫んでいる。

「滝はいいから、聞き込み行くわよ。」

律子は先に立って歩き出した。華厳の滝は日本三大名瀑の一つである。ここにはエレベーターがあって、地下100メートルまで降り、そこから滝を見上げる事ができる。建物の入り口のところへ行くと、モニターがあり、100メートル下からの眺めがリアルタイムで見られるようになっていた。なるほど、100メートル降りれば雲の下へ出て、滝をちゃんと見ることができるようだ。

「すみません、警察の者ですが、この少年を見かけませんでしたでしょうか。」

律子は、入り口に立っていた職員に写真を見せた。

「ああ、多分見ましたね。定かではないですが。」

「いつ頃ですか?」

「今朝の10時ごろでしたかねえ。ずいぶんきれいな顔をした男の子だなあと思ったので、覚えています。」

「誰かと一緒でしたか?」

「さあ。多分一人ではなかったのでしょうが、他のお客さんもたくさんいましたので、どの方と一緒だったのかはあまり・・・。」

「そうですか。それで、この少年がここを出てどこへ向かったのかは分かりますか?」

「いいえ。ああ、あの売店でソフトクリームを買ってましたね。あ、そうだ。そこのベンチに腰かけて食べていて、うん、男の子と一緒だったかなあ。嬉しそうに食べてたなあ。」

警備員のような制服を着た職員は、思い浮かべながら自分も嬉しそうな顔をした。

「男の子と、ですか。」

「ええ、多分。その後は向こうの方へ歩いて行ったとしか分かりません。」

向こうの方にはたくさん車が停まっている。やはり車で移動しているのだろうか。

「ありがとうございました。」

律子と良平は頭を下げた。

「男の子と一緒か。でも、見間違いかもしれないしね。たくさん人がいるから。」

「それか、二人ではないのかもしれませんよ。グループで来ているのかも。」

「そうね、先輩グループと一緒という事も考えられるわね。」

二人はまた車に乗った。すぐに中禅寺湖のほとりに出た。少し行ってから、遊覧船乗り場を見かけて、戻って近くに車を停めた。遊覧船乗り場の職員に写真を見せる。

「あー、この子さっき来たよ。うん、なんか派手な服着てたしね、顔がすごく可愛かったんで、覚えてますよ。」

「どんな服でしたか?」

「赤いTシャツでね、ダブダブの。それに黒いズボンなんだけど、膝が破けてて。」

「それで、彼は誰かと一緒でしたか?」

「どうかなあ。それは良く分からないな。」

「そうですか。彼が船を降りたのは何時ごろか分かりますか?」

「そうだなあ。お昼ごろだったんじゃないかな。」

「そうですか、どうもありがとうございました。」

律子と良平は気が急いた。もう少しで追いつける、と感じたからだ。さあ、この後少年はどこへ向かったのか。

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