第1話

 カーラを送り出した後、オズが屋敷に帰る頃には日は傾いていた。

 どうやら今後の展望について、起きたカリオストロと話をし過ぎてしまったようだ。

 玄関ホールで執事に、


「どちらへ行かれていたのですか?」


 などといつもの事務的な質問をされるが、


「街へ買い物に行っていた」


 と言って鞄から昨日買った本を出せば、


「左様ですか。街は安全になりましたが、貧民街の方はまだ物騒です。次からは執事かメイドを共にお連れ下さい。坊ちゃま」


 とこれまた感情の籠らない受け答えが返ってくる。


「……すまない。次からは気をつけよう」


 オズが執事の苦言に謝罪をし、彼らは頭を下げた。その姿は早く部屋へ行ってくれ、と無言でいっていた。

 三ヶ月に一度、オズがとある理由により法外な収入を得ているのを彼らは知っている。そんなお金があるなら少しでも給金を上げてくれ、とでも思っているのだろう。だが、給金を上げるのはオズの仕事ではない。

 彼らを一瞥し、ホール奥の階段へと足を掛ける。

 派手な手摺りが目立つ赤い階段を昇り、自室へ向かう。

 木目調扉を開けて部屋へ入り、シックな木の机の上に鞄を置く。

 その途端、パキッという高い音が鞄の底からした。


「…………割れたか?」


 鞄を開けて教会の本をベッドの上に投げ捨て、底にぎっしりと詰められた、地下から持ってきた親指ほどの小瓶を確認する。

 小瓶は明かりを反射し、眩しいくらいの輝きを放っていた。

 液体が漏れた痕はない。どうやら割れてはいないらしい。さすがはカリオストロ製の薬瓶といったところか。

 彼は人生を歩んでいた、、、、、、、、当時――おおよそ二〇〇年前は王国の《錬金の勇者》として、後世では《錬金術の父》として名を歴史に刻んでいる。

 そんな彼が製作した治癒薬――外傷を治す薬――と、万能薬――病や毒を治す薬――は物が良いため、薬瓶の見た目もアンティーク調で凝っているからか、学園の御曹司やお嬢様方を通して上流階級の者たちに高値で売れる。いくつか拝借してきたのは、三ヶ月に一度の定期的に行っている資金調達をするためだった。

 コルクのような材質の木――カシクの樹の皮の蓋が洒落た小瓶。それが四〇ほど。全部売れば最低でも百万クローナ――一般市民の平均年収五年分になる。

 実際は最高額固定のそれも先着売りにしているため、最近の平均売却額はもう少し高い額だが。

 オズは四〇の小瓶を、一列五連の薬瓶スタンドに陳列し、八つのスタンドを商売用ポーチの中に入れる。

 これで明日の準備は万全だ。


 ◇


 翌日、二月二一日。学園三年生の教室、昼休み。

 オズの席の周りには学年関係なく、男子生徒と女子生徒の群れでごった返していた。


「オズ! 祖父さんの咳が最近止まらないんだ! もしかしたら大きな病かもしれない! 後生だから万能薬一本を三万で譲ってくれ!」

「ちょっと先輩、割り込みずるいです! オズワルド先輩っ! 先日お父様が仰ってたのですが、先輩の作った万能薬を十本四〇万で購入したいそうです! ぜ、ぜひ、売っていただけませんか!?」

「三万は少し安いな。出し惜しみすると他のに売るぞエドガー。そこの子……えっと、サーシャだったか。君の父君の提示額だったらいいだろう」

「げっ! 俺三万までしか持ってきてねえぞ!」

「あ、ありがとうございます先輩! お代はこちらでよろしいでしょうか?」


 そういってサーシャと呼ばれた女生徒は、赤い魔石をあしらった指輪をオズへと差し出した。

 これは《財輪トレジャーコイル》と呼ばれる魔導具で、魔石の中に金属・鉱石を保管しておける便利な逸品だ。財布代わりとして一般にも浸透している。

 市場では三〇〇クローナ程度で売られているため、女生徒にとっては指輪ごとオズに渡すことに抵抗はないらしい。

 オズは《財輪トレジャーコイル》の中身――金貨四〇〇枚――を確認し、「確かに」といって、


「これが万能薬だ。数は間違えないな?」

「はい、大丈夫です! ありがとうございます!」

「こちらこそ助かる。……で、エドガー。三万とんで五千なら取り置きしておくが」

「頼む! おい、誰か俺に五千貸してくれ!」

「オズ。昨夜、うちの弟が階段から足を滑らせて落ちてしまってな。足の骨を折ったみたいなんだ。あと、祖父が腰を痛めてしまってな。だから治癒薬を一本譲ってくれ! あ、二万で頼む」

「最低価格じゃないか、誰が売るか。次」

「わ、わかった! 二万五千で頼む! これ以上は無理だ!」

「……売れ残ったらその額で売ってやるよ」

「お、おおっ! 頼んだぞ!」

「頼むなら周りに頼め。……次」


 そうこういっているうちに、四〇の小瓶が全て売れたため、オズは大盛況のうちに店じまいを始めた。

 慌ただしく長く感じられる時間も、終わってみれば僅か十数分。たったそれだけの時間で乱痴気騒ぎの様相は終息していった。


「相変わらずね。オズの薬の人気は。薬効の割には格安だからなんだろうけど」


 満員状態の教室から、廊下に逃げてきていたラウラがため息交じりに呟いた。

 彼女と同じく避難していた女生徒が、


「うん。それにしても凄いよね、彼の作る薬って。私も一度病気になったお姉ちゃんに渡したことあるけど、たったの一刻で病気が治っちゃったもの」


 と、興奮気味でラウラの言葉に同意する。

 少し長めのボブカットにした明るい茶色の髪と、緑色の瞳が、温和で人懐っこい印象を与えている。


「ナディア先生が? そう。……そういう話聞くだけで眩暈がしてくるわね。街の薬屋が高値の転売品でも買いたがる理由がわかるわ。オズってこう考えると、やっぱり錬金術関連の《祝福アビリティ》持ちなのかしら。薬効だけ聞くと、かの『カリオストロ』並みじゃない?」


 オズの持ってくる薬は実に常軌を逸している。王国一の薬屋、そこを取り仕切る薬師ですら、その効能の半分未満のものしか作れないのだから。

 ラウラが不服そうに、ローズピンクの艶やかな唇を一文字に結んだ。


「どうなんだろう? まだ教えてくれてないの?」

「ええ。どうして隠すのかしらね。ほんと謎」

「まあ、謎だよね。あの薬の材料をどこで採取してるのか、集めた大金で何してるのか、とかさ」

「……お金の事ならこの間聞いたわよ」

「え、うそ! 本当っ!?」


 口を手で押さえ、テンション高くいった。

 他人の秘密を知るというのは、往々にして気分の昂ぶるものなのだろう。特に噂好きのこの女生徒であるならばなおさら。

 彼女はラウラにぐいっと体を寄せると、


「ねえねえ。あのお金とかって……彼、何に使ってるの?」


 三ヶ月に一度、約一四〇万クローナという大金をどんなことに使っているのか。

 ――危ない遊び? もしかして、贈賄とか? 裏社会の資金にしてたり?

 などと、ラウラが言葉を紡ぐ前に、不躾な想像を女生徒は口に出した。

 彼女の根も葉もない妄想に、ラウラは僅かな不快感を露わにして言い淀んだ。


「それは――」

「薬の材料に使ってる」


 オズの声が、ラウラの詰まった声に被せられた。


「オズ……」

「ええっ、そうなの!? どんだけ超高級品使ってるのよ!」

「治癒薬と万能薬、費用は一本あたり三万クローナ掛かるくらいの材料だ。具体的には翼竜の爪とマンドラゴラにコカトリスの卵殻、金剛石の粉末、月花草に白大蛇の皮……その他諸々だ」

「え……?」


 予想だにしない高値の珍品の列挙に、女生徒はぽかんと口を開けた。

 これらの素材は真実だが、嘘も混じっている。そもそも錬金術関連の《祝福》を持たないオズは、作れても薬にカリオストロほどの薬効を付与することはできない。だが、それを持つカリオストロであれば、水とそこらで手に入る物だけで同様の薬が簡単に作れる。


「期待に添えなくて悪いな」


 答えに肩を落とした女生徒にいった。


「あー……。えっと……ううん、別に!」


 オズの口ぶりからして、先ほどの勝手な妄想を聞かれていたのだろう。女生徒は目をきょどきょどさせると、じゃあ教室に戻るね、と静かになった自分の席へと戻っていった。


「ごめんなさい、オズ。あの子ちょっと妄想癖みたいなところあって」

「……みたいだな。気にしてないからいいが」

「そう。……ありがとう」


 その声はどこか温和な響きだった。

 ラウラにとって、噂好きの女生徒は絡んできてくれる数少ない友達。その友達とオズが険悪となるのは嫌、という気持ちがあったのだろう。


「なんでラウラが礼を言うんだ」

「えっと、それは……な、なんとなく」

「――まあいい。ラウラ、昼食一緒に行くんだろ?」

「あ、そうだったわね」


 自分から誘っておいてすっかり忘れていた。

 ラウラはオズの服の袖を軽く引っ張って、


「行きましょ」


 と、微笑みを浮かべた。


 ◇


 二人が向かった学生食堂は、さっきの教室と同じように人で溢れていた。一台十人掛けの長テーブルが十台。人がびっしりと席を埋めている。空席を見つけるのが難しいほどだ。

 空席がないか、しばらく辺りを見回すと、


「あ、あそこ。空いてるわよ」


 たまたま食堂奥の右端に二席が空いていた。

 ラウラは指さし、オズの手を引く。

 ――いい加減放してくれないか。

 とオズは思うが、ずんずんと進んでいく彼女に面食らって、口には出せないでいた。

 ラウラに席の前まで手を引かれ、やっと解放される。

 いざ座ろうと椅子の背もたれに手を伸ばし、……誰かの手が重なった。


『ん?』


 オズの声と誰かの声がハモる。


「ややっ。オズ先輩っすか?」

「ハインツか」


 オズが名前をいうと、赤髪をバンダナで覆った青年が慌てて手を引っ込めた。

 切れ長の青い双眸が、戸惑ったようにオズとラウラを行き来している。


「あちゃ~。もしかして先輩の先約ですか?」

「私から誘ったのよ」


 ラウラが間髪入れず答え、ハインツ・ヴァイルは、「そ、そんなぁ……」、と項垂れた。


「何だハインツ。ラウラと食べるつもりだったのか?」

「そうっすよ! 今日こそはって思ったんですけど!」


 ラウラに対する好意を隠すことなく、ハインツはニカっと笑った。きっと彼女に夢中でオズの姿を認識していなかったのだろう。

 ――相変わらず素直な奴だな。

 まるで裏表を感じさせない純朴な彼に、


(俺にもこんな純粋な時期があったんだろうな)


 と、過去の記憶に思いを馳せた。


「席は二つしかないわ。他をあたってちょうだい、邪魔」

「う! ううっ……そうします」


 ラウラの有無を言わせない突っ撥ねに、ハインツは涙目になってしょぼくれた。


「おい、ラウラ。そんなに突き放した言い方するなよ」


 哀愁漂わせるその姿に、さすがに同情を禁じ得なかった。


「オズ先輩……」


 オズがフォローを入れると、ハインツはエサを前にした小犬のような目をして――


「おそらく期待してるんだろうけど、席は譲らないぞ」

「ええっ!? そこは譲ってくださいよ!」

「譲ったら俺の席がなくなるだろう」

「そこを何とかお願いします、先輩!」

「……食べる時間がなくなってしまうわ。ハインツ、どこかへ行って」

「はい……」


 柳眉をさかだててラウラが吐き捨てた。

 まただ。――そんなだからお前は友達が少ないんだ。

 この、自分の気に入った者以外に対する冷たさ。ラウラの交友関係が狭いのは、こういった態度で無駄に相手を威圧するからだ。


「あ、あのぉ……席空きますけど」


 意気消沈したハインツに真正面から声が掛かった。

 三人がそちらに目をやると、一人の女生徒が席から立っていた。

 彼女は給仕を呼びつけ、空になった食器を下げさせた。


「その席譲って貰ってもいいんすか!?」

「はい。どうぞ」

「いよっし!」


 ハインツは女生徒に、「ありがとうございます!」、と礼をいって、ほくほく顔で席に座った。


「ちっ!」

「でかい舌打ちだな」


 オズがぼやいて椅子を引く。ラウラがぎろりと睨んでくるが、天井を仰いで見なかったふりをした。

 男の給仕がラウラに注文を取りに来る。彼女は肉の燻製をパンで挟んだ一品を注文した後、不貞腐れてそっぽを向いてしまった。

 オズにも給仕がオーダーを聞く。オズがラウラと同じものを頼むと、ハインツもそれに便乗した。

 給仕は三人分のグラスに水を注ぐと、失礼します、といってオーダーをコックに伝えに厨房へと向かっていった。


「いやあ、それにしても今日の三年の教室は凄かったですね! あの人たち、みんなオズ先輩の薬目当てなんすよね!」


 不機嫌さを隠しもしないラウラに気まずく思ったのか、ハインツはとりあえずオズに話題を振った。


「ああ。おかげさまで即完売だ」

「はえー……すげえ。あの――一年の時から思ってるんすけど、どうしてオズ先輩って勇者じゃないんすか?」


 ハインツの疑問に、オズとラウラがぴくりと肩を揺らした。

 明後日の方を向いていたラウラが、ぐりっと首を一八〇度回転させる。何かを期待した目をオズに向けている。


「どう考えてもオズ先輩って錬金術師系の勇者っすよね? 俺も勇者だからわかるんすけど、なんというか勇者同士の共感っていうんすかね、そういったものを感じるんすよ」

「ふぅん……」

「いや、そんな具体性のない心象だけで言われてもな……」


 ハインツの質問に興味を抱いたのだろう。ラウラが面白そうという反応を示した。

 オズの能力が他者にばれることは、カリオストロとカーラ共作の《観測妨害》という効果に対して《認識阻害》の魔法を施したネックレスと、両足首に巻いたアンクレット、この中のどれかがある限りありえない。《祝福》と《基礎能力ステータス》はネックレスとアンクレットによって秘匿されている。

 余裕があるオズは、それで? と続きを促した。


「だってそうじゃないっすか? 『カリオストロ』にも匹敵する薬を作れるってだけで、それはもう勇者っすよ」

「ハインツ。錬金術っていうのは知識と経験、時間さえあれば誰にでも再現可能な技術だ。『カリオストロ』が勇者扱いされていたのは、彼が他者では再現不可能な調合法を《祝福》で可能としていたこと、それに加えて勇者としての最低限の《基礎能力》を有していたからだ」

「えっ。そうなんですか?」

「貴方、一年生の頃の錬金術史で『カリオストロ』について習わなかった?」


 呆れた声音でラウラが訊いた。


「受講したっすけど、忘れました。へへへ……」

「へへへ、じゃないわよ」

「……つまり、俺は三ヶ月という時間と調合に必要な各材料、蔵書による知識で、彼の薬を再現しているに過ぎないんだ。よっぽど優れた能力でなければ、勇者とはならないぞ」


 我ながら、よくもこんな嘘がスラスラと口から出てくるものだ。

 オズは心の中で自嘲した。


「そうなんですか? 先輩の《基礎能力》はわかんないから置いとくとして……。例えば優れた《祝福》って何すかね?」

「《聖女エリザベス》の《魔法無効化ニュートライズマジック》……、あとはラウラの《百重ハンドレットフォールド》とかだろう。ぱっと思いつくのはこんな感じだ」

「ええっ!? そこまでのものじゃないとってことですか!?」

「ああ」


 オズの講釈に、ハインツは得心が行ったと頷いた。

 ラウラと彼女の《祝福》は、帝国との終戦に反対する当時の継戦派が、帝国に勝てるという根拠にしていたほど強力なものだった。

 事実、一昨年ラウラが王命により国境近くの王国第三都市――フィッツベルクで国境防衛軍を率いていた際、帝国は五人いる勇者の内二人を旗頭に軍を侵攻させたのだが、一陣でその内の一人が彼女に敗北している。彼はあまりの恐怖から、戦意を喪失して逃げ帰ってきたほどだった。

 残りの一人も次陣で片足と片腕を凍傷で失い、再起不能の重傷を負わされている。それでいて、ラウラ自身は無傷。さらには戦争に否定的なスタンスを取っており、追撃を行わないというある種の侮辱すら行っている。しかしそれが罷り通ったのは、彼女が絶対強者だったからに他ならない。貴族たちの間では、兵士一〇万に匹敵する、とすらいわれている。

 帝国からすれば、彼女を刺激して、逆に攻め込まれるなどということは是が非でも避けたかった。その一戦以来、帝国は国境の防御を固めるだけで、侵攻の気配を一切見せなくなっていた。

 終戦を迎えた理由は、ラウラの登場によって戦況が王国優勢にひっくり返ったことに加え、これ以上の戦争を不毛と判断した国王が、和平の使者を帝国へ派遣したからだった。


「ねえ、質問いい?」

「……何だ?」


 すっと片手を挙げて、ラウラが訊いた。

 ラウラは話の後半に関しては納得できた。だが錬金術関連の話が腑に落ちなかった。


「その蔵書って昨年見せて貰ったけど……あれってどこで手に入れたの? 普通に考えて国宝指定されてもおかしくない逸品よね」

「さあな。俺も知らない。遣わした者たちがたまたま、、、、運よく見つけて来たんだ」

「ふぅん、そう。さすがはレイヴンズ伯爵様ってところなのかしら。素晴らしい縁合いをお持ちでいらっしゃるのね」

「……信心深い教徒だからか、骨董品みたいな物には目がないからな。それ関係の繋がりだろう」

「あともう一つ気になることがあるんだけど。材料はいったいどのルートで手に入れてるの? 翼竜の爪なんて魔族領周辺、西のムルジア連邦内でしか手に入らないじゃない」

「――それ用の流通ルートがある。レイヴンズ家に関わることだから詳しくは言えないが」


 ハインツはオズの説明を本気で信じているのか、すげえ、と感嘆の声を上げた。

 しかしラウラは胡乱げに眉を顰め、直後に目をかっと開いた。


「ちょっと待って……オズ貴方、闇市に手を出してるんじゃ――」


 闇市はその名の通り非合法の取引――密輸品や盗品の類などが売られている市場で、王侯貴族がこれに関わるのは御法度とされている。

 隠れて取引を行っている者も中にはいるが、基本、彼らは一切関わりがないということになっている。

 勿論、ラウラのように嫌悪する者や、ハインツのようにそもそも興味を抱いていない者もいるが。


「まさか」


 オズが一瞬の動揺も見せず、即座に否定する。

 ラウラは胸に手を当て、目に見えて安堵を浮かべた。


「…………そうよね、ごめんなさい。すごく失礼なことを言ったわ」

「構わないよ。そう思われるのも仕方ないさ」


 オズはグラスを手に持って傾け、口を湿らせた。


「他に訊きたいことは?」

「失礼ついでにもう一つ……、貴方の《祝福》を教えて」

「俺も知りたいです!」

「……駄目だ」


 王国に個人の《基礎能力》、《祝福》の報告義務はない。

 故に秘密にしておきたい人は、生涯隠しておいても良い事になっている。

 しかし基礎能力と《祝福》はある種の指標だ。どちらかに優れた才覚があれば、それだけで宮廷内の優良職に引き抜かれる可能性が出てくる。オズのように徹底的に秘匿している国民は、まずいない。


「はあ、もういいわよ」

「ああ、諦めてくれ」

「……何となく想像つくし」


 ラウラが思わせ振りな態度でいった。オズはそんな彼女に鋭い視線を送り、


「じゃあ、何だと思う?」


 と訊くと、ラウラは、


「《錬金特化スペシャルアルケミスト》でしょ?」


 と、自信満々に答えた。

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