14話―③『探索』
「ところで、どうやって見分けるの?」
学校前の大きな通りを歩く、あたしと慎。慎の隣には、これでもかってくらい睨みをきかせている蜜柑。あたしの隣には、そんな蜜柑から逃れるようにあたしに隠れる睡蓮がいる。
そして未だに、慎は手を離してくれない。相当信用されていないようだ。
逃げ出したりなんかしないよ……そんなことしたら、明日にでも夢に出されそうだもん。
慎は、道の先を見つめながら呟いた。
「探してる人かって?」
「そう」
「僕の誕生日……正確に言うと、七夕の日の夢に出てくるんだって。だからそこで答え合わせ」
「えっ、七夕が誕生日なの?」
「うん」
意外……そして似合わない……じゃあ逆に、七夕が誕生日っぽい人ってどんなのかって訊かれると困るけど。
――――――ん? でも待てよ。
「それなら……その夢を見てから探した方がいいんじゃないの?」
顔が分かってるわけだしさ。その方が効率いいじゃん。
だが、慎は首を横に振った。
「その人のことを知ってないと夢に出てこないみたいなんだ。夢の発動条件と同じでさ」
「そうなんだ……」
やっぱり途方もない人探しになりそうだね。ああ……自分事じゃないのに気が重い。
交差点に差し掛かった。赤信号を待っている間、慎はふっと顔を向けてきた。
「アンタはさ、魔力者になって後悔してないの?」
――――――慎は、よく話が飛ぶ。しかもいきなり、そんなこと訊いてくるなんて。
少し考えてから、あたしは口を開いた。
「後悔も何も、なろうと思ってなれるものでもないし。でも、なってよかったって思えるよ」
「なんで?」
「だって魔力者じゃなかったら、たぶんみんなとこんなに仲良くなれなかったから」
魔力者だったからこそ、コノハとも、ハク達とも、健治達とも知り合えて仲良くなれた。そりゃ魔力者だったからこその辛いこともたくさんあったけど、でもみんなと出会えたことは、やっぱりすごくうれしいことだよ。
「………そっか」
「慎くんは?」
「僕は………」
信号が青に変わった。あたし達は、横断歩道を渡り始める。慎はこちらには顔を向けず、力なく答えた。
「恨んだよ。魔力者に生まれたことを」
「蘭李ッ!」
急に呼ばれて振り向いた。
考えるより先に、体が動いていた。
―――――――――キキィイイイイイイイイイッ
コンクリートの歩道に倒れこんだ。肌が一部擦り切れる。心臓がとんでもない速さで動いている。顔を上げると、隣に倒れる慎がいた。それでも手は離されなかった。
「だ……大丈夫?」
通りかかったお姉さんに声をかけられた。その目は驚愕と困惑に満ちている。あたしは「大丈夫です!」と笑って言い放ち、すぐに慎を連れてその場を離れた。
――――――またやってしまった。でも回避するにはこうするしかなかったんだもん……!
蜜柑に呼ばれて振り向いたら、トラックが横断歩道に侵入してきていた。あと少しで轢かれるってところで、だからあたしは魔法で間一髪回避した。
いつもと異なる点は、慎がいたこと。手を掴んでいてくれたから一緒に避けられたけど、そうじゃなかったら慎は大変なことになってたかも。でも、誰かを引っ張ったことなんてなかったから、めちゃくちゃ腕が痛い。人って結構重いんだね……。
「いたた……」
ぐっと腕を引かれ、体が静止する。振り向くと、慎がかすり傷に手を当てていた。
やばっ………無我夢中で歩いちゃってた……。
「ごめん。大丈夫?」
「ああ………こっちこそありがとう。危うく轢かれるところだった」
「間に合ってよかったよ……」
ホント、それに尽きる。
あー怖かった……でも魔法使っちゃったなあ……魔警察にバレないといいけど……。
自身の体を見回す慎に、おそるおそる声をかけた。
「ねえ、今日は探すのやめにしない?」
このまま外にいたら、魔警察に会いそうだし、何か無性に怖くなっちゃった……。
慎は少し考え、あたしの目を見据えてきた。
「……一人にはなりたくない」
「え?」
「一人にはなりたくない」
じっと見られて、なぜか目が逸らせなくなった。真っ白い瞳からは、不安そうな雰囲気が醸し出されていた。
一人になりたくないって………どういうこと?
「……………」
沈黙。何も言ってこない。
引っ越してきたから不安ってこと? そういえば、慎の家ってどこなんだろう。学校から近いのかな。
うーん………仕方無い。
「じゃあ、ついてきて」
「………?」
慎を引いて歩き出す。
仕方無い。真意は分からないけど、今日は付き合ってやろう。下手に断ると、夢に出されそうだし。
まあ行く場所は、いつものところだけどね。
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