6話ー①『疑問』

「海斗、銃の扱い方教えてくれないか?」


 突然の発言に、白夜達は皆振り向いた。発言主の槍耶は真っ直ぐに海斗を見ている。歩みは止めず、廊下を進みながら槍耶は続けた。


「俺、遠距離戦が滅法弱いからさ。弓でも良かったけど、せっかく海斗が銃使えるんだしと思って」

「別にいいけど」

「やった! サンキュー!」


 紫苑が突き当たりのドアを引き、トレーニングルームに入った。海斗と槍耶は真っ直ぐ射撃場へと向かう。その背を見送りながら雷がぼそりと呟いた。


「遠距離攻撃かあ。うちも何か練習しようかなあ」

「雷も?」

「魔法で出来るっちゃあ出来るけど………あっそうだ!」


 雷がくるりと振り向き、メルの手を取った。


「槍耶が銃ならうちは弓でいこう! メル、できたよね? 教えて!」

「承知いたしました。お任せください」

「よおーし! 早速練習だー!」


 雷がメルの手を引き、ピョンピョン跳ねながら射撃場へ向かう。トレーニングルームに残った紫苑は苦笑を浮かべて白夜を見やった。


「あんな軽いノリでいいのか?」

「いいんじゃね? 紫苑はやらないの?」

「いや……俺は魔法をもっと磨かないとだし」

「ああそうか」

「白夜、そろそろ魔法使えそうか?」

「うーん……もうちょいかも」

「そっか。じゃあみんなの見学にでも行こうっと」


 紫苑も射撃場へ行ってしまうと、トレーニングルームに静寂が広がった。白夜は呆然と周囲を見回す。いつも騒がしくいるはずの幽霊達はいない。

 最後に会ったのは昨日……意味深なことを言い残していた。



「蘭李と会ったの? 小四だから………三年前かな?」

「ならばその前に何かあったかは聞いておるか?」

「その前? いや別に……」


 白夜が答えると、蜜柑は「うう……」と唸った。胡座をかき、くるくると体が回っている。珍しく真剣に悩むその姿に、白夜は不思議そうに彼女を見上げた。

 華城の幽霊達が白夜のところに訪れてきたのは、彼女が眠ろうと床についた夜……蘭李の護衛任務の次の夜だった。

 このような訪問はこれまでにも何度かあり、大抵蜜柑と睡蓮が好き放題暴れて帰っていく。無視してもハエみたいに付きまとわれるため、白夜にもどうにもならない。そろそろ何か策を考えなければいけないと彼女は密かに思っていた。


「なんで? 何かあったの?」

「いや、たぶんこの人の思い違いだから気にすんな」

「思い違いかどうかは分からぬではないか!」

「だからってこいつに聞いても解決しないだろ」

「そうだよお。シロちゃんにだって分からないことはあるんだから」

「ぐぬぬ……」


 再び唸る蜜柑。諦めたのか、「仕方ない」とこぼして三人は部屋から去った。


「なんだあいつら」


 詳細を教えてもらえないまま、ぽつんと一人自室に残される白夜。歯がゆいまま就寝するしかなく、寝付きはあまり良くなかった。

 なので翌日の今日、もう一度三人に訊こうとしたのだが、なんと蘭李がインフルエンザで学校を欠席したのだった。当然、彼女を守る存在の三人も来るはずもなく。しかもインフルエンザということは、実質一週間程は休むということだ。


「何なんだよもう……」


 一週間もこのわだかまりに悩まされるのかと思うと、彼女は気が重かった。


「あれ? 白夜だけ?」

「ああ……健治」


 健治がトレーニングルームにやってきた。辺りを見回して、雷達の行方を尋ねる。白夜はざっと説明した。


「へぇ、遠距離ねえ。で、白夜はやらないのかい?」

「うん……まあやりたいけど……」

「ん?」


 白夜は健治をじっと見た。

 彼女は昨日のことを彼に話そうか迷っていた。他の皆には話していない。幽霊達の意図が分からないし、そもそも何か問題が起きたわけでもない。

 それなら話す必要もないか―――白夜はふいっと顔を逸らした。


「なんでもない」

「そう。ところで蘭李は?」

「インフルで休み」

「うわ……君達の間で流行らないでよね」


「今年も結構流行ってるよね」などと呟く健治。紫色の瞳はその横顔を盗み見た。


「ところで健治って何か武器、使えるの?」

「拳銃とナイフかな。護身術としてだけど、使えることには使えるよ」

「へえ」

「なんで? 俺に習いたいと思った?」

「いや、それはないけど」

「それはないのか……」


 残念そうに肩を落とす健治。ちょうどその時、射撃場から紫苑が戻ってきた。彼は二人を見つけると、興奮気味にあちらであったことを話し始める。あらかた話し終えたその後、白夜は紫苑の魔法克服のため彼の練習に付き合った。

 まあ治ったら訊いてみればいいだろう。今は気になるけどしょうがない―――彼女はそう自分に言い聞かせ、特訓に集中した。

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