第47話 雫の気持ちと震え
「ふぅ、時間が経つのは早いわね……」
その放課後、私は自ら生徒会活動の日程をまとめ柳田先生に提出した。
『また後日』と柳田先生に言われていたが、りく君と生徒会室を使っていたところを見逃してもらっている以上、その言葉に甘えることは意に反すものだったのだ。
……正門を出た時間は19時50分。『雫を待ってるよ』なんて言うりく君を先に帰したしたのは正解だった。一緒に帰りたくても、こんな時間まで彼氏を待たせたくはないのだから……。
後は歩いて帰宅するだけ。
私が使用人から車を用意してもらうことは雨が強い日のみ。それは私を特別な目で見てくる相手を減らすため……。面倒事に巻き込まれるのは嫌なのだ。
ゆっくりと自宅方面に足を進めながら……考えることはあの人のことだけ。今はそんな時間が幸せだった。
(りく君とデート……デート。本当に嬉しい……)
ふふっ、と嬉しさを抑えきれずに表情を崩してしまう。
『なんで一人で笑っているんだ……?』 なんて通行人に不気味に捉えられるのが分かっていても、こればかりは直しようがない。
(……でも、りく君とキスが出来たらもっと嬉しかったのに……)
今日の昼休み、キスの約束を叶えることは出来なかったのだ。それは雫に心の余裕がなかったからこそで、デートを約束するまでの緊張は計り知れないものだった。
(もっと段取りを考えてれば、キスが出来たかもしれなかったのよね……。キス……キス……)
今になってそんな後悔が生まれくる。
好きな人とのキス。それは麻薬のようなもので、何度も欲しくなってくる……。
(もぅ……ぅぅ、身体が熱くなってきたじゃない……)
そんな昂りを夜風に当たりながら必死に冷ます私。
この感覚はりく君としか共有したくない……。
りく君とだけしたい……。
りく君じゃないと満足出来ない……。
「もう少し進んだことをシたいって言ったのなら……、りく君はどんな反応を見せてくれるのかしら……」
私だってそういう欲が無いわけじゃない。好きな人とだったらそんなコトをしたいのは当たり前……。
初めてのことで怖い気持ちもある。でも、結ばれたい気持ちの方が断然大きい……。
(私がりく君をこんな気持ちにさせるつもりだったのに……。これはこれで悔しいわ……)
でも、そんな悔しさの中には嬉しさがいっぱいある。言葉で出来ないような心踊る嬉しさが。
「ふふっ、りく君……本当大好き……」
と、甘えきった声を私が漏らした寸時ーーその声に呼応したように私のスマホが振動を始める。
『ブルル……ブルル……』
その振動は電話だった。
スマホを手に取った私は液晶に映し出された文字に目を向け……画面をスライドした後に電話に出る。
『もしもし、どうしたの? リン』
『しずく姉さん、今どちらにいますか?」
電話の相手は私の妹からだった。
『今学園から帰宅しているところよ。あと数分くらいで着くと思うわ。……それで、リンの要件はなにかしら?』
『……お父様とお母様がお帰りになりました』
『……っ、そう』
間を空けたリンの発言に、無意識に息を呑む。
『リンが私に連絡を入れたってことは
『……はい。しずく姉さんが帰宅次第お話がある……と、ピリピリさせたお父様が』
『今までにないくらいに怒っていたでしょう?』
怒られる理由も心当たりがある。お父様が何を話したいのかも。
『しずく姉さんを怖がらせるつもりはないんですが、わたしがリビングにいられないくらいには……』
『……リン。貴女の意見を聞かせてほしいのだけれど、お見合いを断った話
『しずく姉さんが考えていることと同じです。陸さんとのお付き合いの件も絡んでいるのは間違いないかと』
『ふぅ……。どうしようかしらね……本当』
これが私が怒られる理由……その心当たりだ。普通の家庭なら告白をしてこんなお付き合いをするのは普通である。……でも、私達は違う。
『対策、思い付かなかったようですね……』
『
『後悔、してます?』
『この先次第よ……。お父様が私にどのようなことを話すのか』
私はりく君と付き合っている。もう別れるつもりもない。……だからこそ、どんな話を持ち出されるのか、どのような対処をしてくるのか。話し合いに全てがかかってくる。
『……出来る限り、わたしもしずく姉さんのフォローに回りますので』
『ありがたい申し出だけど、それは結構よ。この問題は全て私にあるのも。リンになにかしらの影響を与えることはしたくないわ』
『何を言っているんですか。わたしもしずく姉さんと同じでお見合い結婚は反対なんですよ? わたしはその気持ち通りに行動したいのです。それに、いつまでもしずく姉さんを頼るわけにはいきませんから』
『……嬉しいことを言うのね。それならお願いしようかしら』
『ありがとうございます。では、ご帰宅待ってますので』
そうしてリンとの電話が終わり、私は夜空を見上げる……。
その瞳から涙がじわっと浮かんできた……。
「デート前に、これなのね……。本当、嫌だ……」
私の声は自然と震える……。
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