第46話 デートのアドバイス
「それでね、それでねっ! 陸先輩は何回もみみのこと助けてくれたんだー! 本当のことなんだからね、萌ちゃん!」
「なるほど、そんな理由があってあの人は不良ではないと公言していたわけですか」
放課後を迎え……下校時、橘財閥の萌とみみが仲良く帰宅していた。
そんな二人の会話は、陸がミミを何度も助けてくれた話だ。
「うんっ! だからね、あんなに優しい陸先輩が不良って怖がられるのはどう考えてもおかしいもん! 萌ちゃんも関わってみて分かったでしょ?」
「そうですね」
と、首を縦に振って萌は頷きーー
「でも、ミミさんが不良の噂を消してくれなければ、萌が陸せんぱいと関わることはありませんでしたよ」
危険な相手、そんな噂がある相手に自ら近付こうとする者は物好きでしかない。名家の家に住む萌が、そのような相手に進んで話かけることはない。
それは、自らを危険に晒すような行為でしかないからだ。
「あはは……。そういえば萌ちゃんはもう陸先輩と仲良くなれた?」
「仲良くなった……のかもしれませんね。……それより、ミミさんは知ってますか? 陸せんぱいがとある女性と付き合っていることに」
『お金なので陸を動かそうとした』件をミミに話すわけにもいかない。また、そこで説教を受けたことも。
上手く誤魔化しを図るために、萌はこの話題を上手く流した。
「へっ!? つ、付き合ってる!? あの陸先輩がっ!?」
「はい、相手は高等部の生徒会長さんですよ
「せ、生徒会長!? つ、つまり雫先輩!? あの雫先輩!?」
「そうですね」
「んー。んんー! でもおかしなことじゃないよねっ。陸先輩だって優しいしかっこいいもん!」
両手をぐっと前に寄せ、少し頰を赤らめながら本心を話すミミに萌は微笑を浮かべて
そんな矢先のことだった。
「ど、どうすりゃいいんだか……。困ったなほんと……」
独り言をブツブツと呟きながら、ある男子生徒が萌とミミを追い越した。悩みがあるのは明白で顎に手を当てながら熟考していた。
その者はミミも萌も知っている人物だ。
「ミミさん。今萌たちの前を通り過ぎた人……陸せんぱいじゃないですか?」
「えっ……?」
萌の問いにミミは視線を前に向け……にぱぁと表情を輝かせる。
「陸先輩っ!」
「声、かけちゃいましたか……」
「ん? ……おおー、ミミと萌か……。なんか珍しい組み合わせだな。二人は友達なのか?」
「はいっ!」
話しかけられたことで二人に気付く陸。そんな陸の問いに対し元気よく手を上げて友達だとアピールするミミ。その様子は見ている側も微笑ましい光景だった。
「……陸せんぱい、この前はありがとうございました」
そして、ミミの隣にいた萌が深く頭を下げお礼を伝えてきた。『あの時』と言葉を濁す萌だが、陸もその内容についてはもちろん分かっている。
「いやいや、もう終わったことだし気にしないでくれ。それに……あの時は俺も悪かったからさ」
「あ、あれ……? な、何かあったんです? 萌ちゃんと」
「……え、えっと萌に勉強を教えてたんだが、分からないところが多すぎて何も助けにならなかったんだよ。萌も萌で難易度が高い問題を出してきてさ」
(庇ってくれるんですね……)
陸に会って早々、萌が頭を下げたのだ。何かあったんだろうな……と思うのは誰だってい同じだろう。
そして、萌を庇う理由は一つ。雫のことを『逆恨み』していた件はもう解決している。誰かに言う必要は全くないのだ。
「えっ!? 萌ちゃんは陸先輩に勉強を教えてもらうくらい仲良くなってたの!?」
「まぁな」
「萌ちゃんいいなぁ……。今度みみにも勉強を教えてほしいなぁ……」
「それなら今度一緒にしてみるか? 勉強を教えられるかは分からないけど」
「ほわあぁぁ……。ありがとうございますっ!」
後光が出るような満面の笑みを見せるミミ。そんな様子に勉強を教えていたのは『嘘』だと言えるはずもなく、むず痒い気持ちになる。
「……陸せんぱい。それはそうとさっき何に悩んでいたんですか? かなり唸ってましたけど」
そんな感情を悟ってか、萌が助け舟を出すように話題を変えてくれる。
「い、いや……あー。それじゃあ聞いてくれるか?」
「はい、もちろんです」
「みみもっ!」
『誰にも言わない方が良いよな……』なんて思った陸だが、一人で考えても解決策が浮かばないのは、目に見えて分かっていたこと……。陸はある点を掻い摘んで萌とミミに相談した。
「女子ってプライベートの時、どんなところで遊んだりするんだ? やっぱりカラオケとか?」
「そうですね、
「みみは新しく出来た猫カフェが良いと思いますっ! 楽しかったですよー!」
「映画館にショッピング、猫カフェ……。って、なんで話がデートにすり替わってんだ!?」
そう、これが陸の隠した点。
「違うんですか?」
「違うんです?」
「そ……そうだけどさ」
「その様子だと陸せんぱいにはデート経験が無く、何処に行けばよいのか迷っている。といった感じでしょうか?」
「正解……」
勘の良い二人には、簡単に『デート』だとバレてしまう。そして、萌にはその一歩先……陸の胸中までもバレていた。
「あっ、それなら雫先輩に引っ張ってもらうって手も……」
「た、確かに……それもそうなんだが」
“お互いにデートが初めて”だなんて雫に影響することを言えるわけもなく……。正直引っ張ってもらうことは厳しいこと。……本音を言うなら、引っ張ってもらうのは御免だった。
「そう言うことですか。陸せんぱいは引っ張る側に回りたい、と」
「そりゃ俺は男だし……雫の後輩に当たるとはいえプライドがあるっていうか」
「そうですね……。それなら、萌たちの意見は参考までに。陸せんぱいが全てを決めた方が良いと思います。引っ張る側に回るなら、自分の判断が重要になってくるのは間違いないので」
「さ、流石は萌ちゃん……。説得力がある……」
「なるほどな……」
中学生とは言えど萌は雫と同じ名家だ。こう言ったことに対してのアドバイスが出来るのは世間渡り上手だからであろう。
「陸せんぱいは難しく考え過ぎだと思いますよ? 付き合っている関係なら一緒にいられるだけで楽しくもあり、嬉しいでしょうから」
「デート、頑張ってくださいねっ! 陸先輩!!」
「そうだな……。それじゃあ、もっと簡単に考えてみることにするよ。ありがとう二人とも」
そうして……相談に乗ってくれた萌とミミに礼を告げ、陸は考える時間を作るために走り去っていく。
「……良いですよね、あのようにデートを真剣に考えてくれる男の子は」
「……むむぅ、なんか雫先輩が羨ましいです……」
その後ろ姿を見て、そんな言葉を漏らす萌とミミであった……。
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