第43話 二人っきりの生徒会室

 時は過ぎ……昼休みに入る。

 購買で数個のパンを購入した陸は、今朝もらったメールに従うように生徒会室に向かいつつ、こっそりとスマホを操作していた。


『もうすぐ生徒会室に着くけど、ノックとかした方がいいか?』

『ううん、そのまま入室して大丈夫よ。ただ、他の人に見られないようにお願いするわ』

 陸がその内容のメールを送信した数秒後、既読が付き直ぐに返事が返ってくる。

 恐らく、スマホの通知機能をオンにしていたのだろう。


 そうして、雫のメールに『了解』と返した陸は、スマホをポケットに入れ階段を上がっていく。

 生徒会室は購買がある棟の3階に位置している。

 一段飛ばしで3階にまで到達した陸は、長い廊下を進み『生徒会室』と書かれた教室札が目に入れる。


 キョロキョロと周りを見渡しながら生徒会室までたどり着いた陸は、誰にも見られていないことを確認して、素早く中に入室するのだった。



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「失礼します……」

「昨日ぶりね、りく君。今朝はいきなりのメールをごめんなさい」

「いや、大丈夫。俺も雫に話したいことがあったからさ」

 二度目の生徒会室。そしてこの空間には雫しかいない。今朝のことを話すには十分な場所だった。


「それじゃあ早くこっちにおいで。座りながらでも話しましょう」

「あ、ああ……。分かった」

「あ、鍵だけお願いしても良いかしら? こんなところを誰にも見られるわけにはいかないから」

「……そうだな」


『カチャリ』

 室内から生徒会室の鍵を閉めた陸は、雫が座っているソファーまでゆっくりと歩み寄り隣に腰を下ろす。

 その際に、購買で買ったパンを生徒会室の机上に置いた。


「ふふっ、隣に座ってくれるのね……。てっきり対面するように座るかと思ってたわ」

「雫の隣に座りたかったからさ。こうやって一緒に座れる機会はあんまりないわけだし」

「私が前に言った言葉を引用してるわね。……でも、それならもっと近付くべきだと思うの……」


 雫はソファーの上に人差し指で円を描きながら、小声でそう伝えてくる。

 陸と雫の距離は1人と半分くらい入るほど。それは間違いなく彼氏彼女の距離ではない。


「あ、あの……。それはお互いの要件を済ませてからにしないか? そうじゃないと話に集中出来ないっていうか……」

「それだとりく君とくっ付ける時間がなくなるじゃない……。貴方が頑張って集中すれば解決すれば良いわ……」

「わ、わがままだな……」

「だ、だって……私がわがままを言えたり、甘えられたり出来るのはりく君だけ、、だもの……」


 チラッと視線をこちらに向ける雫の瞳は潤み、なんとも断りづらい。その表情も陸にしか見せない愛おしいもの。


「りく君が不満なら、我慢するけれど……」

 そして拗ねたような表情まで見せてくる。


「いや、その質問はズルいって……。俺の気持ちを知っててそう言うんだから」

「わ、私だってりく君と同じ気持ちなの。だから……」

「……はぁ、分かったよ」

 

 そんな雫の根気に押され、陸はソファーから立ち上がって距離を詰める。再び腰を下ろした時には、雫と肩が当たるほど近付いた。


「雫……。俺から先に言わなきゃいけないことがあるんだ」

「……昨日のこと、壁ドンよね?」

「ああ……」 

 陸が本題を話す前に内容を言い当てる雫は、『大丈夫』というように微笑んで見せる。


「本当にごめん。あの時はこうなるなんて何も考えられなくて……」

「何言ってるのよ。りく君が謝ることも気負うことも何もないわ。いずれにしろ私たちの関係が皆にバレるのは時間の問題だったはずよ」

「そ、そうは言ってもさ……何か思うことはあるだろ?」


 昨日の今日で付き合ったことがバレる。それは陸にだって雫にだって予想していなかったこと。しかし、雫に動揺はこれっぽっちも生まれていなかった。

 雫が見据えている問題はこの先のこと……。それは、今以上に厄介なものであるからだ……。


「いいえ、特に無いけれど……。りく君がそこまで引っ張るってことは、あのミスに対しての罪滅ぼしをしたいってところかしら?」

「……そ、そういうことになる。全ては俺の不注意なのは間違いないし、雫が『良い』言っても俺の気が済まないっていうか……」

「……じゃあ一つだけ、私のお願いを聞いてもらおうかしら」


 そんな陸の言い分に何か良いことを思いついたのか、桜色の唇をふっと上げた雫は指である場所をさす。


「ここに来て、りく君……」

「……え」

 陸は見た。雫が自らの太ももに手をさしたことを。


「そう、私がりく君を膝枕をするの。……も、もちろん膝枕をする時に私の方に顔を向けちゃダメよ? 下着……見えたら恥ずかしいから……」

「え、えっと……それはなんて言うか、俺がご褒美をもらうようで罪滅ぼしとは全く関係ないと思うんだが……」

「ううん、これはただ私がしたいこと。……私がりく君を膝枕をした後に罪滅ぼしをしてもらうわ。つまり、りく君は私の膝枕を受けないと罪滅ぼしが出来ないってことね」

「……な、なんだよそれ」


 有利な展開を作り、上手く話を運ぶ雫。話術と頭の回転の良さは折り紙付き。陸に勝ち目などあるはずがない。


「時間は有限よ。ほら……早くする」

「え、ちょっ……」

「早くっ!」

「お、おわッッ!?」


 陸がそんな驚き声を上げた時にはもう遅い。雫は陸の左肩に手を当て思いっきりこちら側に引っ張ったのだから……。

 抵抗をしようとしても、陸の体勢はもう崩れている。……どう足掻いてもこの先の展開は覆ることはない。

『ぼふっ』と横になってしまい、そんな顔の着地視点は雫のあの、、場所。


「……っ!!」

 雫が履いている黒タイツの布地の感触。その後にホイップのような柔らかさの太ももの感触が陸を襲う。


「こ、こっちを見ちゃダメだからね……」

「……」

 雫がそんな注意を促してくるが、いきなりのことに声を出すことすらできない。

 身体が自然と固まり……太ももの柔らかい感触が蝕んでいく。黒タイツには少しの熱が帯びており、雫の体温まで伝わってくる。


「りく君はなにも文句を言えないわ……。だ、だってこれは、貴方が私にしたことなんだから……。この場所で、強引に……」

 そんな言葉を発したと思えば、雫の白く細い手が陸の頭に置かれ……不器用に撫でられる。


「…………」

「…………」

 この状況で話題を出せるような者はいない。陸は顔を真っ赤にさせ、雫も負けじと真っ赤にさせているの。自分のことで精一杯なのだ。


「……りく、君」

「……」

「私、やっぱり貴方が大好きよ……。りく君の彼女になれて本当に良かった……」

 頭を撫でている動かしながら、雫は優しく声をかけていく。


「りく君の前だと、どうしてもわがままを言ったり、甘えたりしちゃう……。だから迷惑だったり、限度を越えてる時があればいつでも言ってほしい……。貴方にだけは嫌われたくないの……」

「そ、そんなこと気にしないでいいって……。お、俺……そんな雫も好きだからさ……」

「も、もぅ……。そ、そんなこと言われると我慢出来なくなるじゃない……」


 雫が少し掠れた声で言い終えた瞬間だった。ロングの銀髪が陸の頰を撫で……甘い吐息が聞こえてくる。

 それは雫が顔を近付けてきた証拠……。


「昨日の約束を……しましょ……」

「あ、ああ……」

 陸は雫の膝枕の上で仰向けの体勢に変え、じっとその時を待つ。

 そしてーー雫は距離をゆっくりと縮めていき……お互いの唇が触れようとしたその瞬間だった。


『コンコン』

 ノック音が数回……。


「雫、生徒会活動の日程について少し話したいんだが」

 それは聞き間違えでもなんでもない。生徒会主任、柳田先生の声だった。



=======



後書き失礼しますっ!


約二ヶ月この物語を書き、いよいよ話の三分の二が終わったくらいになりました!


そして、皆様のおかげでフォロワーさん1800!

もう少しでお星様が500! もう少しでPVが20万を超えますっ!

この結果に応えられるようこれからも頑張りますので、完結まで応援宜しくおねがいします(><)


後書き失礼しました。

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