第42話 翌日の出来事
その翌日。陸が教室に入ったと同時に起こったこと……。
「地獄に堕ちろォォオオオ!! 陸ッッッ!!!!」
「へ……」
陸に目掛けて怒り狂ったような言葉を発されたのは……。
不良の噂がじわじわと消えてきているが、タイマンでこんな言葉を堂々と言える相手は一人しかいない。
「い、いきなりどうしたんだよ健太……。朝からテンション高いな」
「まぁなあ!!!」
と、怒りのオーラを発している健太だが、陸に会えたことに対する嬉しさが含まれているのは間違いない。
「あのな、怒るのか嬉しがるのかどっちかにしてくれ……。リアクション取りにくいだろ」
「……そうだな、まずりくは席に着け。オレも落ち着く。そしてお前に話したいことがある」
「き、切り替え凄いな……。まぁ良いけど……」
さっきまでの崩壊した口調はどこへ行ったのか、スイッチがオフになったように平常心に戻る健太。
その切り替えの速さは雫に引けを取らないくらいだろう。
「コ、コホン……。それじゃあ早速聞くが……お前、雫先輩と付き合ってんだろ」
「……ど、どうして?」
咳払いからいきなり本題を話してくる健太。
そんな健太に対し、陸は陸はあえて疑問符を付けて聞き返した。ーーそう、陸は雫とまだ確認していないことがある。
『皆に今の関係をバラしても大丈夫なのか』……と。
もし雫に不都合があった場合、今の関係を隠すのは必然。
まだそのことを聞いてない以上、自分の発言一つで取り返しが付かなくなる。だからこそ、素直に打ち明けるわけにはいかないのだ。
「昨日のことになるんだが、お前が雫先輩を壁ドンしてるところを見たやつがいる。めちゃクソイチャラブしてたってな……。もうこれだけ言えば分かるだろ」
「……なっ!?」
現実から背けたい事実を健太から突き付けられる陸。背中からひんやりとした汗が流れてくる……。
「その時、二人乗りのバイクが通らなかったか? クラクションを鳴らしたバイク」
「……」
「話を進めるが、あのバイクの後部座席にいた奴がこの学園の同級生だったってわけ」
「…………」
次々と知らされる情報。その一つ一つが陸の首を閉めるものになる。健太の言う通り、あの現場を見られた時点で詰んでいる。言い逃れが出来るはずがない。
「因みに、バイクを運転してたのは青春を卒業出来なかった姉さんらしい。その腹いせにクラクションを鳴らしたんだとさ」
「そ、その情報はいらないけど…………ほ、本当なのか?」
「本当だし、もうこの話はメチャクチャ広まってる。なんせ……あの雫先輩が壁ドンされてたんだからな」
「マジ……かよ」
雫が壁ドンをされていた。これは間違いなく大スクープであり、生徒達の口からは必ず話題に出るくるものだろう。
今までどんな男にも距離を置いていた生徒会長の雫。鉄壁な会長が一瞬にして覆った瞬間なのだから。
「それ以前に、馬鹿だろお前……。車通りがある場所でそんなことすれば、こうなることは分かってただろうに」
「そ、そこまで考えられなかったんだ……。俺、誰かと付き合うのなんて初めてだし……、気持ちに余裕がなかったっていうか……」
「んまぁ、相手があの雫先輩なら分かるけどさ。それより、あっちは大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫って?」
「付き合ってることを公にしても大丈夫なのかってこと、主に九条先輩が。……まぁ、そのことを聞いてないからさっき誤魔化したんだろうけど」
流石は健太と言うべきだろう、陸の考えをなにもかも看破している。
「とりあえず、連絡した方が良いよな……」
「もう連絡する必要はないだろ。雫先輩にその情報が行ってないわけねぇって」
「た、確かに……」
「まぁ、雫先輩が付き合ってることを公にしたかったって信じといた方がいい。そっちの方が気が楽になるのは間違いない」
「ありがと……。そうすることにするよ」
やっぱりここで頼りになるのは唯一の友達である健太だ。
『ふぅ』と息を吐き……心を落ち着かせる陸。
一応の話が終わり……陸が背負ってきたカバンから教材を引き出しに入れようとした最中ーー
「んで……どこまで行ったんだい君? 親友として教えてくれないですかねぇ?」
いたずら顔で陸をツンツンと突いてくる健太。
『今までアドバイスしてたんだから、当然教えてくれるよな?』なんて強制的なセリフを吐かないのは健太らしいことである。
「そ、それは言えない……」
「そう言われると思ってたさ。それじゃあ妥協して……、どっちから告ったんだ? これも教えられないか?」
「いや、大丈夫。……それは俺からだよ」
「ほぅ、そこはしっかり男を見せたんだな。やるじゃん」
「き、緊張でボロボロだったけど……」
「最初の告白はそんなもんだって」
陸は断言出来る。あの告白の時の緊張は今までで一番だったと。
告白を断られたのなら、今までの関係が崩れる場合もある。いくら彼女の予約をされていようが気持ちが変わる可能性はあり、断られない可能性はゼロじゃないのだ。
「それと……もう一つ教えてほしいことがあるんだが」
「なんだ?」
「雫先輩って、告白を受けた時もやっぱりいつも通りの鉄仮面なんだよ……な?」
「いや、そんなことはないよ。普通に顔を赤くしたりするぞ」
「……マ、マジかよ」
発した言葉通りに信じられないという表情をする健太。だがそれも仕方ない。
学園での雫は、表情の変化があまりない『クール』な生徒会長。
皆はその時の雫しか目に入れたことがない。自然とそんなイメージが付くのは当然なのだから。
「それに、笑ったりすると八重歯も見える」
「雫先輩に八重歯? 流石にそれは嘘だろー。今までそんな情報出たことないぞ?」
「本当だって」
「……マジの本当?」
「ああ」
「つ、つまり陸だけにしか見せない表情があるってことか……。お前めちゃくちゃ大切にされてんじゃん」
「俺だけに見せる表情……?」
「だってあの雫先輩が照れたりとか聞いたことないだろ。ましてや八重歯を見せて笑ったりなんて。……もういい、やっぱお前は地獄に落ちてこい」
「やだよ!」
健太は教室の窓を指でさし、飛び降りろなんてジェスチャーをする。当然、これには冗談が含まれている。この階から飛び降りれば待っているのは間違いなく即死。高校生のノリというやつだ。
「ってか、普段からクールな雫先輩が顔を赤くしたり……八重歯見せて笑ったりとか、想像しただけでもうやばいんだが。絶対可愛いだろ!?」
「うん……。正直見惚れる部分はたくさんあるよ。そ、それに……どんな表情でも可愛く思うし……」
はは、と頰を掻きながら恥ずかしそうに言う陸。そこには幸せ溢れたオーラが広がり……完全なる惚気が出た。
しかしーーこれは完全なる地雷。それを見た瞬間、健太の血管がプチっと切れたのだから……。
「ノロけんじゃねェェェエエエ! クソガァァアアア!!」
「その情緒どうにかしろって!?」
そんなことがあり……この時間、陸は健太を止めることだけに時間を費やしていた最中。
『昼休み、生徒会室に来て。もちろんりく君一人で』
マナーモードだった陸のスマホに彼女からのメールが届いたのであった……。
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