第24話 気持ちの告白
(……そう言えば、今までりく君から私に何かアタックをかけて来たことは一度もないのよね……)
雫の足は陸が居るであろう図書室に向かっていた。その中で考えているのは今までの工程だった。
手を繋いだり、一週間に一度は一緒に帰る約束をしたり、抱き寄せてもらったり。
(でもそれはりく君からしてきたわけじゃない……。相合傘の誘いだって本気じゃないもの……)
唯一、陸から誘って来た相合傘。……しかし、本気の誘いではないことはもちろん分かっていた。
(もしかしたら今までのことは全部迷惑だったのかもしれないわね……)
そんな気持ちが嫌でも生まれてくる。
雫にとってこれは初恋であり……異性にアタックを掛けるなんて初めてのこと。
どのような要領で、どこまでの加減をして良いのか分からないのだ。もちろん、どうすれば意識してくれるのかも。
(恋占いの結果通り、素直になれば良いのかしら……)
そんな思考を持ちながら雫は図書室の扉を開ける。
「……失礼します」
図書室では大声を上げてはいけない。それは暗黙のルール。雫は小さな声で挨拶した後に歴史本が並ぶコーナーに移動する。
(いた……)
予想通り、そこには陸がいた。
飽きることもなく歴史本に目を通している陸は、よほど集中しているのか、動くことなく文字に目を走らせている。
雫は陸の背後を取る事なく、いつも通りに近付いていく……。そして、陸の制服の裾をピンと引っ張り意識をこちらに向けさせた。
「りく君」
「……ん?」
互いの視線が絡んだその瞬間ーー
「う、うおッッ!?」
驚きの声を上げた陸はそのまま雫から距離を取った。陸からすれば突然と雫が姿を現したことになり、その反応は仕方がないものだ。
「そ、そこまで距離を取らなくても良いじゃない……。少し傷付くわ」
「お、驚いたんだよ。いきなり目の前に居たんだから……」
はぁ、と一息入れた颯は、歴史本を閉じて距離をゆっくりと縮める。
「そ、それで……今日は一体どうしたんだ?」
陸の間にぎこちなさが生まれてしまうのは、昼休みに凛花と話し合ったことが原因だった。
『雫の気持ちは本気だ』……そう伝えられ、どのような顔をして接すれば良いのか、惑いがあったのだ。
「……やっぱり、そんなことだと思ったわ。……一緒に帰るって約束をした曜日を忘れてるのね」
「一緒に帰る……? あっ、すまん……!」
一緒に帰るという約束を忘れていた陸は雫に向かって平謝りをする。その一方で、大きな瞳を細める雫には不満の色が漂っていた。
約束を忘れていたとなると、別の予定を入れる可能性……。一緒に帰れなくなる可能性が十分にあるのだから。
「も、もしかして別の用事を入れたりした……?」
「そ、それは大丈夫。幸い用事は入ってない」
「用事は無いのね……。良かった」
眉と眉の間を広くおどけさせ、安堵の息を吐く雫。
そんな雫を見て疑問点が生まれた陸は、思ったままの言葉を掛けた。
「そ、そんなにホッとすることなのか? ……俺としては約束を破らなくて良かったとは思うけど……」
「た、楽しみにしていたのだから当然よ……」
「ん。……はい!?」
「なによその反応……」
静かな空間、喋り声のない図書室に陸の声が響く。雫がそこで見せたのは、
「い、いや……。雫がそんなことを言うとは思わなかったからさ。しかも俺と帰ることが楽しみとか……」
「た、楽しみに決まってるじゃない。だ、だって、私はりく君の彼女になる予約をしたんだもの……」
胸の前で人差し指を絡め合わせ、モジモジとさせながら雫は事実を口にする。
「えっと……ま、前にも聞いたが、それって本気で言ってんのか?」
「冗談なんかでこんなこと言わないわ……」
『…………』
瞬間ーー訪れたのは静寂。二秒、三秒と静けさが支配する。
その空間を打ち破ったのは、頰をピンク色にさせた雫だった。
「こ、この際だから言うけれど、私……りく君以外の男性を彼氏にするつもりはない のよ。もちろん、予約を取り消すつもりもね」
「ど、どう言う意味だ……?」
普段ならば、こんなことを暴露したりはしない。雫には確かな焦りがあったのだ。
今、新たなに流れている『陸は不良ではない』との噂。
陸の誤解が解けるは嬉しいこと……。しかし、狙われたようにタイミングが悪いのだ。
もし、陸の不良の噂が払拭されたなら、女子の手が迫ることは間違いない。……それは昔から知っている雫が確信していること。
優しい性格に、容姿の良さ。そして……お付き合いの経験がない。そんな情報が伝わったのなら、誰だって狙いたくなる。
それが分かっているからこそ、雫はどうにかして予防線を張らなければならない。
それに当たって雫が出来るのは二つだけ。
ーー先手を打つこと。
ーー恋占いのアドバイス、『素直になること』『本当の自分を出すこと』だけである。
「こ、言葉通り、私はりく君にしか眼中にない……。そう言っているのよ。今までの告白を断ってきたことがその証拠」
「……ッ!?」
雫の言葉に嘘はない。その瞳には強い意志が込められていたのだ。
「もう……白状するわ」
そして、二秒の間。それは雫が深く呼吸した時間だった。
「…………りく君、私は貴方が好きなの。この気持ちだけは誰にも負けない。りく君を渡したくない。誰にも、取られたくない……。そのくらい貴方が大好き……」
「……っ!」
雫は言った。陸が悩みに悩んでいた答えを、自らの口で……。
「でも、これは告白じゃないわ。ただの独り言……」
目伏せし、恥ずかしさを我慢しながら雫は前置きを作る。……そして、一番大事なことを伝えた。
「り、りく君が私を好きになった時、私の中でそう分かった時……、ほ、本当の告白をするつもりだから……。相合傘の時に言った、貴方の唇を一番に奪って……」
その時、雫の煌びやかな銀髪は窓から注がれる夕日によって、反射するように光を帯びた。
一番の勇気を振り絞った告白に、のぼせたように首元まで真っ赤になっている雫。モジモジと斜め下に視線を逸らしているが、その長髪で顔を隠すことはしなかった。
その照れた表情を見た者は、陸以外に居るはずもない……。
また、そんな雫に陸が釘付けになっていることなど、知る由もなく……。
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