第11話 アノ距離まで接近!?

 その放課後。

 私は学園での用事を済ませた後に図書室に足を運び……迷う事なく歴史本が並ぶ本棚に向かっていく。


 その理由はただ一つ。ある人に会いたいから……。


「こっち……いや、こっちの方が面白そうだな……」

(やっぱりここにいた……。りく君……) 


 その想いが叶ったように、そこには想い人がいた……。

 私の瞳には想い人の大きな背中が映っている。想い人の声が聞こえている。


 本棚から顔半分だけ出す私は、りく君にバレないように様子を伺っていた。

 本当ならば、隠れる必要はないだろう……。しかし、私には心に決めていることがあり、その一歩が踏み出せなかったのだ。


(私に恋愛経験があれば、この一歩を踏み出せたのかしら……)

 その一歩とは……りく君に攻撃アタックをかけること。


 アタックをかけるための勉強もした。復習もした。友達のミクにもアドバイスを貰った。タイミングも、アタックをかける流れも。出来る限りの勉強してきた。

 

 ここまでした理由は、行動に移すため。……全ては、りく君に振り向いてもらうため。


 ……だが、それが分かっていても、どうにも自信が持てなかった……。


(好意を寄せていることがバレるくらいならまだ良いのよ……。でも、これで嫌われたりなんかしたら……)

 攻撃アタックを掛けるに当たって、りく君が私のことをどう思っているのか。これが全てを左右する。


『……ペラッ……ペラッ』

 私が一考している中、図書室に聞こえるのはりく君がページを捲る音だけ。……その音がアタックを催促しているような感覚に陥ってしまう。


 この瞬間、私の脳裏にある言葉がよぎった……。


『あなたに大事なものは、本当の姿、、、、を出すこと。それはその人の前だけでも大丈夫です。それがあの人との距離を縮める近道にもなり、その人を捕まえるキッカケにもなるでしょう』


(……っ)

 恋占いに記された結果。……確証のないことでも、この言葉は私にとって勇気を出す一歩となる。


 りく君を取られたくない……。

 りく君を渡したくない……。

 りく君とお付き合いがしたい……。


 この想いが私を突き動かした。


(嫌われたら……取り戻せば良い。攻撃アタックをかけない事には何も始まらないわよね……)

 わたしは覚悟を決めた。覚悟が決まった。……迷う心を無にしてゆっくりと身体を動かす。


(りく君は書籍に集中している……。今なら不意打ち、、、、攻撃アタックが出来る……。りく君にアタックをする……したい……。これが本当の私……)


 音を消して一歩一歩前に進む私。それに気付いてないりく君は、視線を動かして記されている文字に目を走らせているだけ。

 身体が動いていない分、的を絞るのは簡単なこと……。


(後ろから身体を当てて声をかける。い、行けるわ……)

 この想いが生まれた瞬間だった。


 緊張の糸が一瞬切れ、僅かな安心感が生まれる。

 だが……この気持ちは良い方に働かなかった。……この気持ちを生んでしまったことで攻撃アタックの順序が狂う結果になったのだ……。


「あっ……」

 足に何かが当たった感触ーーその次に、浮遊感のような不思議な感覚が私を襲う。

 一瞬遅れて何が起こったのか理解した。


(つ、躓いた……っ!?)

 時すでに遅し。私とりく君の距離はもう僅か……。


「りく君っ!?」

「……え、ハァッ!?」


 私がりく君に注意を促した矢先ーー躓いた勢いのままりく君の身体に体当たりし……鈍い音を立てながら共に倒れる。

 その衝撃は複数の書籍が本棚から落ちてくるほどだった……。


「痛ってぇ……」

「い、痛たた……」

 最初に漏らしたのは互いに同じ言葉。

 何故かりく君の声は私の耳元で聞こえていた……。


 不思議に思いながら倒れた痛みを堪え私が目を開ければ…………そこにはとんでもない光景が広がっていた。


「……し、しししし雫っ!?」

「……はっ!?」


 りく君の声はしどろもどろで、不意打ちにあったような驚愕の色が見えた。がーーそれは私も同じ。


 その距離は今まで以上に近く、少しでも顔を動かせば唇が触れるほど……。私の片手はりく君の胸板にあり……脚は絡まっていた。


 私は、大きな体を持つりく君を押し倒していたのだ……。





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