第9話 あの少女との再会
4時限目終了のチャイムが鳴り、昼休憩を迎える。クラスの皆は一秒を惜しまないようにテキパキと勉強道具を片付け、今日一番の騒がしさを見せている。
「おいおい、聞いてくれよ陸。雫先輩に告白した男子がまた一人撃沈したらしい」
「毎度のこと情報持ってくるのが早いな……」
昼休憩に入った瞬間、陸の隣席にいる健太がいきなり話を持ってくる。
「情報は力なんだから、持っておいて損はないぜ?」
「俺には不良の力がある」
「ハハハッ、確かにそうだな!」
「自分で振っといてなんだが、笑われると悲しくなるな……。それで、本題は?」
健太のことをよく知る陸は、話の続きがあること察する。
「それじゃあ、話させてもらうが……今回、雫先輩の告白の断り方が変わってたらしいんだ」
「それどう言う意味だ?」
「今までの断りセリフは『想い人が居るの。ごめんなさい』だっただろ?」
「ああ、実際に聞いたことはないが……」
このセリフは断られた男子が口を揃えて言っていたもの。
「それが今回、『お気持ちは嬉しいけれどごめんなさい。私、どうしても落としたい相手がいるの』だったらしい」
「それはなんていうか……凄い進展だな」
想い人から落としたい相手に変わる。雫に何かしらの変化が起こったということ。そして、何かしらの行動を起こす予兆。
何故かここで陸の胸にモヤが掛かった。
「それだけじゃない。……先週の金曜日、雫先輩が図書室で恋愛アドバイス本を借りたって、図書委員のやつが言ってた」
「恋愛アドバイス本……?」
「言葉通りの本だ。ここはこうすれば相手を意識させることが出来るとか……。多分、雫先輩はその相手を本気で落としにくると思うぜ?」
「な、何があったんだろうな……」
「さぁ、恋のライバルでも出来たんじゃないか?」
陸は知る由もない。雫の言う『落としたい相手』が自分を指していることに。
「……って、健太は雫先輩を狙ってるのに平気なんだな?」
「正直なところ、ネタで言ったた部分もあったし無理なことが分かってた分、切り替えは早いもんさ。オレの可能性もまだゼロじゃないし」
「九条先輩が落としたい相手……か」
陸には隠しきれない不安が襲っていた。この不安が一体なんなのか、何故こうも気になっているのか、今はまだ知らない……。
ただ、陸にとって雫が『気になっている相手』から変わりつつあるのは間違いなかった。
「中等部のやつもあるんじゃね?」
「中学生……? 健太、その理由は?」
「雫先輩、年下好きそうだし可能性としては十分かなぁってな」
顎先に手を当て首を傾ける健太は、そう言い終えた後にスマホを取り出した。
「まぁ、しばらくは情報を漁ってみることにする」
「飯食わないのか?」
「あと数分したら食うぞ。腹減ったし」
「分かった。そんじゃその間に飲み物買ってくる。……健太、何か欲しいものあるか?」
カバンの中から黒皮の長財布を取り出し、陸は健太にそう促す。
「奢ってくれんのか!?」
「こんな噂が立ってても友達として接してくれるお礼」
「そんじゃあ、お言葉に甘えまして炭酸系で!」
「炭酸ならなんでもいいのか?」
「ああ、なんでも……って、炭酸水のチョイスはやめてくれよ?」
「はははっ、流石に分かってるって」
そうして、陸は財布をポケットに入れて教室を出る。階段を使って一階まで降り、迷うことなく自動販売機に辿りつく。
「お茶と……健太のはこれでいっか」
500円玉を入れ、お茶とオレンジ味の炭酸を買った陸は、取り出し口から飲み物を手に取ってお釣りをもらう。
そうして、足早に立ち去ろうとした瞬間だった。
「あ、あぁ……っ!」
「……?」
その背後から驚きに溢れた声が聞こえてくる。なんとなくその声源に視線を向ければ……ある女子生徒が口を震わせながらこちらに指をさしていた。
だが、その表情から感じ取れたのは恐怖ではなく驚き。
その女子生徒は、スーパーマーケットで出会ったあの少女だったのだ……。
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