第4回:世界を征服することって、やっぱり楽しいこともあるから
ーー王都『デルリィン』。見渡す限り広大な平野のど真ん中に、かの有名な城がある。『デルリィン城』だ。この王城の歴史はとても古く、最初に建設されたのは第三次世界戦争の真っ只中である。その後、時代の移ろいとともに落城したり再築されたり、統治する者はその都度変われども、文字通りこの世界の中心に君臨する唯一無二の城郭としてファンタジアにその名を轟かせてきた。その第二十九代城主が、我らが魔王・リーンハルトさまなのである。
□『自分だけの世界地図』□
花:魔王さま。四回目となる今日は、この王都『デルリィン城』の中からお送りしようと思います。どうぞよろしくお願いします。
魔:こちらこそよろしくお願いします。
花:うわあ、『とても美しいステンドグラス』ですね。『窓に描かれているのは楽園にいる天使と魔族の子供たち』でしょうか、『歴史と気品を感じます』。『あのステンドグラスは、あのノース=チェドルビナ翁製』では? 『故チェドルビナ翁は魔シック様式を生み出した世界三大窓職人の一人で、彼の作品で現存するのは世界に五つを残すのみ』なんですよね。『まさに統治王に相応しい』……」
魔:……カンペを読みながら褒めたたえるのは止めてください。照れるに照れられません。
花:失礼しました。私世界史とかでも、用語とか暗記するの大の苦手で……。
魔:芸術論とか学術的価値とかそんなことは気にせずに、パッと見た感想はどうですか?
花:すごい、綺麗だけど掃除するの大変そう。
魔:(笑)。
ーーあらかじめこちらが用意したお世辞に一切照れることなく、私の個人的な感想にも気さくに対応してくれる魔王(写真10)。この気さくな感じで、彼は世界を征服してしまったのだろう。さらに今回は、そんな魔王のプライベート・ルームを特別に公開していただけることになった。
花:お邪魔します。おお、ここが魔王のお部屋……!
魔:どうぞ、何のお構いもできませんが(笑)。
花:征服記念の銅像とか盾とかたくさん飾られているのかと思ってましたけど、意外とシンプルで住み心地良さそうですね。この部屋の中で、数々の征服のアイディアが生み出されて来た訳ですね!
魔:まあ、そう言うことです(笑)。
花:あ! あの机の上にあるのは……!?
魔:『征服用・地図』ですね。若い頃から愛用してる奴です。
ーーそう言うと魔王は、机の上に綺麗に丸められていた地図を手に取り、少し懐かしむように地図の表面を撫でた。
魔:『征服用・地図』は、征服した陣地を自分で自由に書き込めるようになってるんですよ。言わば『自分だけの世界地図』です。子供の頃、プロの征服者に憧れて地図を買いに走った人は多いと思いますよ。
ーーここで蓋世の英雄である魔王さまに、プロの征服者になるために最低限必要な専門道具を紹介してもらった。将来世界征服を企んでいる若い読者の方々は、ぜひ参考にして欲しい。
①『プロ向け・世界征服地図原稿用紙』(四〇〇〜一六〇〇ルビィ)
・先にも紹介があった、自分や敵の陣地を正確に書き記す地図の用紙。空間把握・地図作成能力が、征服能力に直結すると言っても過言ではない。A3サイズだと少し値が張るので、最初はB4サイズから試してみよう!
②『SS(世界征服)ペン』(二〇〇〜八〇〇ルビィ)
・ペン先は各メーカーからたくさんの種類が販売されているが、魔王さまのおすすめは魔カロニック社製の『初心者向けSSペン』。しなりが少なく、細い線も描きやすい。
③『ホワイト・インク』(二〇〇〜六〇〇ルビィ)
・修正用のホワイト。初心者や駆け出しの頃は、間違って隣の町を征服しちゃった、なんてことも多いのでは? 小筆などで水に浸して使おう。
④『スクリーン・トーン』(四〇〇〜八〇〇ルビィ)
・市販される札型広域魔法の名称。魔法の言葉を唱えながら、異界の魔ジックアイテム『スクリーン・トーン』なるお札を天にかざすことで、魔力が無い者でも気軽に魔法が使える。オススメは稲妻速攻型の『No.八』と『No.三十五』。たくさん種類があるので、自分の用途に合わせて買い足して行こう!
□世界を征服することって、やっぱり楽しいこともあるから□
花:なるほど。最低限これがあれば、誰でも世界征服が始められると言うことですね?
魔:そうですね。高い画材にも目が行きますが、若い人は最初は値段を気にせずに、楽しんで世界を征服してもらいたいですね。世界を征服することって、苦しいことや逃げ出したいこと、それに責任の重いこともたくさんあるけれど、やっぱり楽しいこともあるから。むしろ『100』あるうちの『99』が苦しくて、でもその中にめちゃくちゃ楽しいことが『1』あるから、私もここまで続けてこれたような気がしますね。
花:魔王さまが子供の頃は、征服者になるためにどんなことを?
魔:うーん……。特別大したことはやってなかったと思いますけど。好きな征服者の国とかは、好んで遊びに行ってたような気がしますね。後は、あの征服者は普段カレーが好物らしいから、じゃあ私もお母さんに、今夜の晩ご飯はカレーにしてもらおう、とか……(笑)。
花:魔王さまにしては、なかなかほほ笑ましいエピソードですね(笑)。
魔:子供の頃の話ですよ(笑)。
花:それで、その『カレー』と言うのは、何かの隠語なんですか?
魔:はい?
花:世界征服に関わる、最新魔術兵器の略称とか?
魔:いや、本当にただのカレーの話です。
花:本当に? あれほどまでに圧倒的な力でファンタジア全土を征服しておきながら、本当にただのカレーの話?
魔:本当です。本当に、ただのカレーの話です。
花:…………。
魔:…………。
ーー結局『カレー』が何たるかは、最後まで教えてもらえなかった。しかしついこないだ世界を征服したばかりの英傑が、直近のインタビューで本当にただのカレーの話をするなんて、もちろん読者も誰も思ってはいまい。果たして『カレー』とは何の暗号なのだろうか。残念ながら国家の機密に関わるかもしれない
魔:本当にカレー好きなんですよ。本当ですって。何か私が国民に重大な秘密を隠してるみたいな感じにするの止めてください。カレーは、昔はオーソドックスな奴を良く食べてたけど、最近じゃシーフードとか野菜とか……。
花:カレーの話はもういいです。
魔:…………。
花:最後に征服者を目指している若い方々に、何かアドバイスを一言。
魔:そうですね……。『迂闊に自分の好きな食べ物のこととか語ると、国家機密の暗号扱いされるから気をつけて』。
花:今日はありがとうございました。
ーー最後は煙に巻かれてしまったが、彼が国家の機密を背負っているのは間違いない事実である。私たち庶民は、ただ『カレー』と言う単語に妄想を働かせ、一体世界征服の裏で何があったのか、頭の中で想像することしかできない。きっと彼もプロの征服者の一人として、公に言えないことも多いのだろう。ただ一つ言えるのは、子供の頃好きだった征服者について語る魔王さまの目は、まるで少年のように輝いていたと言うことである。《続く》
(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)
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