第3回:これからも世界のために何かできることを
ーー村上・ケイシュタイン・崇さんに引き連れられ、私たちは民家の群れを通り過ぎ、村の外れの鬱蒼と生い茂る森の近くまで来ていた。果たして村上さんが私たちに見せたかったものとは?
□もうあんな思いは二度としたくない□
花:村上さん、ここは?
村:目的地はもうちょっと先です。この森の中に……ほら、見えて来た。
魔:あれは……!
村:慰霊碑です。今回の戦争で亡くなった方々の、お墓ですよ。
ーー森の中に祀られていたのは、先の戦いで命を落とした兵士、一般村民、魔族など、所属や立場を超えた様々な戦死者たちだった。およそ五メートル以上の高さのある慰霊碑は、身長二メートルを越す魔王の背丈よりも遥かに高い。鎮魂の碑文が刻まれた石碑を見上げ、魔王はしばらく無言でその場に佇んだ。
村:生き残った村人が、お金を出し合って建てたんです。僕の故郷『アウシュテルリッツ村』でも、多くの人が犠牲になりました。
魔:…………。
村:可笑しなものですよね。「もうあんな思いは二度としたくない」と誰もが願いながら……今や世界戦争は第七次にまで伸びてしまった。
魔:…………。
ーー慰霊碑の前に膝をつき、しばらく祈りを捧げる魔王(写真8)。世界征服は、必ずしも光ある部分だけではない。大きな戦争が起こるたびに、罪なき人々が巻き込まれ命を落としていくのはどんな世界も、いつの世も同じなのだろう。
花:魔王さまは、「今回の世界征服には意味があった」とお考えですか?
魔:…………。
花:「自分の愛するものを守るためには、戦うことも致し方がない」と、世間一般ではよく言われますが。
魔:……相手側にも我々と同じように愛するものがいないとは、私は思えません。
ーー魔王は前回と同様、”調停”と言うテーマを掲げた。それは少なくとも”支配”や”理想郷”を標榜した他の征服志願者とは、一線を画するものだったには違いない。アウシュテルリッツにある慰霊碑は、種族や宗派に関わりなく、皆同じ石の下に鎮魂されていた。『世界征服』を成し遂げた者の光と影。取材班(と言っても今は私一人だが)はこれからもその後ろ姿を追っていく。
□この世界を征服した暁には……□
村:魔王さまに、一つお願いがあるんです。
魔:?
村:魔王さまは今回の『世界征服』の裏で、「女子は全員、週に一回ビキニアーマーのコスプレ」を推し進めたわけじゃないですか。
魔:ああ……(笑)
花:「この世界を征服した暁には……」ってやつですね。
魔:……だって、萌えません? ビキニアーマー。僧侶とか戦士とか、ああ言う普段凛々しくキリッとしてる人がですね、ふとした瞬間に二人きりの時だけに見せる甘えた顔と言うか、ギャップと言うか……。
花:…………。
村:…………。
魔:え? あれ?
村:魔王さまの性癖の話は、ここでは置いておくとして……。
魔:…………。
村:魔王さまには、僕ともう一度、剣を交えて欲しいんです。
魔:ええっ……!?
村:お願いします、もう一度だけ、憧れの魔王さまと戦ってみたいんです! 今度は立場や政治情勢など関係なく、純粋に剣士同士の試合として。
魔:今インタビュー中ですよ……!?
花:良いじゃないですか。これは面白い展開になって来ましたね。読者の方も、きっと喜んでくれると思います!
魔:そうかなあ……??
ーー魔王がアンニュイになっていたからだろうか、取材中、村上さんが面白いことを言い出して魔王の手を引っ張って行った。私たちは剣道場へと向かった。道着に着替え、お互い剣を構え向かい合う魔王と村上さん(写真9)。
村:僕が勝ったら……魔王さまは引退を取り消し、僕を仲間に入れてください。そしてまたどこかで紛争が起こった時に、共に戦いましょう。
魔:そんな無茶苦茶な……。
村:貴方のその征服力は、きっと次代にも役に立つ。いくら戦争が終わったからって、まだ隠居するには早いですよ。
魔:じゃあ、私が勝ったら?
村:その時は……ビキニアーマーのコスプレをしてもらいます。
魔:なんでだよ!?
花:レディファイト!!
魔:ちょ……待って……!
ーー(激しい戦いが繰り広げられる。長いので省略)。
魔:はあ……はあ……。
村:負けました……!
魔:…………。
村:いっやあ、強いなあ! 僕なんか、まだまだ当分勝てそうにないや……!
村:魔王さま……。
魔:…………。
村:魔王さまは、どうしてご隠居を?
魔:私は……。
村:…………。
魔:私はもちろん、征服活動を諦めたわけではありません。これからも世界のために何かできることを、微力ながらやって行きたいと思っています。ただ一旦世界が征服された後ですから、自分にも心の整理と言うか……。
花:充電期間?
魔:そうですね。今後の方向性とか、反省も含めて……「これで良いのか?」って言う自問は、いつも胸の中にありますね。
花:魔王さま。本日改めて剣を交えて、村上さんの印象は前と変わりましたか?
魔:そうですね……強かった。勝てたのはたまたまだと思います。次やったらどうなるか分からない。しかし、良いものですね。確実に次の世代が育っているのを感じます。やはり私は、引退するべきだ、と……。
花:勝ったので、ビキニアーマーのコスプレですね。
魔:え?
花:ご用意しておりますので、こちらへどうぞ。
魔:……え??
ーー戸惑う魔王を二人掛かりで押さえつけ、ビキニアーマーのコスプレを敢行した。『世界征服』を成し遂げた者の光と影。魔王は今、週一で女性がビキニアーマーを着ている世界を見て、何を思うのだろうか。取材班はこれからも、ビキニ魔王の後ろ姿を追っていく。
(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)
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