第6話 疲れた体に癒しの。
鍋に牛乳と砂糖を入れて火にかける。
その間にボウルで卵をよく混ぜて、白身と黄身の境がわからなくなるまで。
沸騰寸前の鍋の火を止めて、少し混ぜてから卵と混ぜる。
「これが卵液っていうんだっけ、忘れたけどまあいいや」
そこにゼラチンを投入。ふやかさなくていい、なんて素敵なゼラチン。
あとはもう混ぜる。
ゼラチンがしっかり溶けるように。
めちゃくちゃ混ぜる。
でも泡はなるべく立てないように。
「おっと…コレ入れるの忘れた」
もう一回、今度はバニラエッセンスが全体にいきわたるように混ぜる。
「さて…ホントは小瓶でもあればおしゃれだったんだけど」
マグカップを取り出して注ぐ。
気泡は竹串で潰しておく。できるだけ。
ラップをして、冷蔵庫へ。
牛乳を火にかけていた鍋をかるく水でゆすいで、そこに砂糖と水を入れて火にかける。
なるべくかきまぜず、鍋を揺するようにして火を通す。
体感時間、10分。
ずっと白かった砂糖水が、突然茶色くなり始めた。
「うわ、もっとこう…だんだん茶色になるのかと思ってた…」
鍋の火をぎりぎりまで弱くして、水を入れたコップを電子レンジへ。
熱湯になったそれを、だいぶ茶色くなった鍋へin、速攻蓋をする。
「うん、いいねぇ、いいにおい」
茶碗にカラメルを移して、ラップで蓋をして…少し迷って常温で放置することにした。
いくら水で薄めてあるとはいえ、なんだか冷蔵庫に入れたら飴になってそうだし。
「さて、と…行きますかね」
事前にバイト先から渡されていた資料がたっぷり入ったトートバッグを肩にかけて、尻ポケットに突っ込んでいたiPodから伸びるイヤホンを耳に入れ、私は少し跳ねる気持ちで家を出た。
「疲れたお腹空いた疲れた!!!!」
靴を脱ぎすて、重たいトートバッグを遠心力に任せてベッドに放り投げる。
手を洗って、直行するは冷蔵庫。
マグカップを取り出してラップをはがす。
「ぷるっぷるだぁ…」
艶のあるぷるぷるに、少しだけ苦めにつくったはずのカラメルソースを優しくかける。
「はぁ…最高」
至福の時間。
この白いマグカップを買った時に一緒に買った、金色のスプーン。
持ち手の先端部分はクローバーの形になっている。
それを、揺らさなくてもわかるくらいぷるぷるなプリンにそっと差し込む。
掬って…たっぷりかけたカラメルがスプーンから零れ落ちる。
「我ながら上出来すぎ…」
プリンは濃いバニラの味、今度はバニラビーンズを入れるのもアリかもしれない。
それとは対照的に、狙い通り少し苦く作ることができたカラメル。
「やばいなコレ、バケツいけそう」
少し大きめのマグカップにしておいてよかった。
バイト先での理不尽な説教、大学の同期からの何言ってるんだかさっぱりわからない、こちらが不当に責められまくっているLINE。
全部忘れて、目の前のつやつやでぷるぷるなプリンにだけ集中する。
私の視野は今、マグカップの直径分しかない。
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