休憩 第1話

<まえがき>

第二話 めんつゆポテンシャル

にて、「ハルちゃん」という初キャラを、

第三話 献上いたしますスイーツ 

にて、「莉里」という初キャラをさらっと登場させてしまいました。

ハルちゃんのフルネームは「北見小春」、莉里のフルネームは「立花莉里」です。

以後お見知りおきを…

この休憩ストーリーなんですけど、こういうチョロっとさらっと出てくるようなキャラに焦点を当てたカンジになってま…したかったなぁ…

今回は一応ハルちゃんのお話です。


 <本編>

 「っあ~~~、疲れた」

「オッサンみたいな声出さないでよ…」

週に1回の部活のミーティングの日。やたらと夕飯に誘ってくる先輩からは飲酒の気配しかしなかったため「明日朝早いんですよぉ~」とか適当なことを言って逃げて、2人で家に帰ってきた…私は清華の家に泊まりに来た。

週末だし、明日は私も清華もバイトが無い日だし。

「マジで腹立つあの人…!なんであんなのがうちらの先輩なんだ…意味わかんないよ神様…」

昼に買ったペットボトルを飲み干してからそう悪態をつくと、清華は靴下を脱ぎながら苦笑いをこぼした。

「神様に相談するならもうちょとマシな時じゃないとね。いくら八百万ったってこんなの担当してる神様なんかいないでしょ」

放送部。私と清華が所属している部活。

その中にはFM班という、文字通りFMラジオを週に1回放送している班があって、私たちはそれに入っている。

最近はさっさと辞めてしまいたいくらいに班がストレッサーになっているのだが、私たちよりも前に愛想を尽かした人が多くいて人数不足になってしまったので引き止められている。

さっきまでお世話になっているFM局に集められていて、1時間ほどFM班の班長が局長さんに叱られているところを見ていた。

てっきり私たちも叱られるものだと思っていたら、私たちは班長がその場で謝罪できるように集められただけだった。

それまでの班長と局長さんのやりとり…口論は誰が聞いても「馬鹿か、コイツ…」と嘆息したくなる内容だった。

班長の、謝罪だか言いわけだかわからないセリフ。

知らない人が聞いたらそれとはわからないように、けれどもはっきりと私たちにも責任を押し付けようとしているのが見て取れた。この場合は聞いて取れた、か?

それで、その場にいてそれを聞いていた全員がブチ切れたのだ。

さっき夕飯に誘ってきた先輩もきっとそうで、多分、私たちと一緒に飲んだくれて愚痴を吐き出すつもりだったのだろう。

めんどうったらありゃしない、逃げてよかった。

だいたいまだ19歳だし。

「お前が班長なんじゃなかったのか?センセイからの言いつけなんて、班長だったら小学生でも守りそうなものを」

清華は私の決して綺麗とは言えない口調でぶちまける愚痴を、いつ出したのか、1リットル紙パックのオレンジジュースを注ぎながら聞いてくれていた。

私たちFM班の放送を、局長さんだって仕事があるので毎回欠かさず聞けるわけではない。

そこで、班長から、班長から!「報告書を提出しよう」と提案したのだ。

「それは毎回俺が提出する」とも言ったのに!

「半年分も良く放置してたなほんとに…私たちが提出してなくて班長が提出できなかったならともかく、私たちは全員提出してたじゃん…なぁにが『もっと提出したことを明確に確認できる方法をつくりませんか』だ、LINEでも直接でも、少なくとも2回はアンタに提出しましたって言ってるっつーの、大体毎日部室に籠ってるクセに提出籠確認してなかったってどういうことなんだか…これからはアンタの家のポストか玄関の隙間に直接提出しに行けばいいって事なんですかねぇ?奥さん」

しかも班長は、代わりに出してくるという副班長の申し出をすべて断っていたという。

「よくそんなに口回るね、立て板に水って言うんだっけ?」

オレンジジュースを飲みながら、清華は私をからかうでもなくそう言った。

なんだか喚いているのがアホらしくなってため息をつく。

「…清華が滅多に怒らないっていうのはいろんな人から聞いてたけど、ほんとに怒らないんだ…」

「怒るのって体力使うじゃん?ただでさえ授業だバイトだって忙しくてまあまあ毎日疲れてるのに、何かアホな事1人でベラベラ吐いてるおバカちゃんに腹立てる理由も意味もないなって思って。別に私あの先輩と仲良い訳でも仲悪い訳でもない…ていうか興味なかったし」

「うぅわ、地味~に怖い事言うね」

なんだか…日頃清華が怒らない理由が分かった気がする。

それが大正解豪華景品当選の解答だったとしても、怖いから聞かないけど。

清華はいつも使っているトートバッグから少し年季が入ってきている財布を取り出すと、

「お腹空いた、甘いモノ食べたい」

と笑った。

その財布を取り上げてにーっこり笑ってやる。

なんだかこうしてると昔からの友達みたいだ。

清華は笑いながらため息をつくと、

「家にあるものでいいなら」

と呟いた。

キッチンに向かう清華の後ろについていく。

「キューピー3分クッキング!今日のメニューは?」

「カカオ85%チョコレートで簡単チョコムース!」

…清華も清華なりに、一応イライラしているのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る