第4話 真夜中の幸せ

足りない。

なんだか疲れ切ってしまって、夕飯をマクドナルドの月見バーガーセットで済ませてしまったのだが、どうにも腹が満たされていない。

生憎パンはこの前使い切ってしまったし、米も炊かないと無い。

時刻はもうすぐ1時になる。

こんな時間に米を炊く体力なんかない。

そもそも、それが面倒でマクドナルドに行ったのだ。

「…何かなかったっけ…」

コンビニで手に取った雑誌に、「デキる女の作り置き!」みたいな特集が組まれていたのを思い出す。

生憎私はデキる女でも何でもないので、作り置きなんて便利なものは一つも用意していない。

「あ、じゃがいも発見」

一縷の望みをかけて、冷蔵庫を漁る。

この前母親がうちに来た時に冷蔵庫を弄っていた。

捨てられてなければいいのだけれど。

「…あった…!」

 じゃがいもは小ぶりなものが2個だけだったので両方使ってしまう。

泥をしっかり落として、皮のまま皿に入れたら少し水を垂らしてラップで蓋をして、竹串がスッと入るようになるまで温める。

「これだけでほとんど完成でしかもおいしくて満足感あるって…もっと重宝するべき料理だよ、コレは」

一人暮らしを始めてよかった事は、「こういう」ことを咎める人がいないという事だ、と思う。

ほくほくのじゃがいもに十字の切れ目を入れて、分厚く切ったバターを乗せる。

甘い香りが部屋中に立ち込める。

溶けたバターが染み込んでいく。

そこをフォークでピンポイントに切って口に入れる。

溶けるように崩れていくじゃがいも。

じゃがバターなんて、ここ数年食べた記憶がない。

バターを捨てないでとっておいてくれた母親に感謝する。

幸せでしかなかった。

少し残るバターの余韻に浸る。

今が夜中の1時を回っていることも、そんな時間にこんなものを食べるのが本当はよくないことも、もう全部がどうでもよかった。

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