第3話 献上いたしますスイーツ

バターをとろとろに溶かしたところに無糖のココアを入れる。

バターとほぼ同量の砂糖も入れて、溶けるまでよく混ぜる。

「卵黄2個と卵白を足してちょうど100g…?そんなことしなきゃいけないのか…」

卵も混ざったココアにホットケーキミックスを入れて、ゴムベラで粉っぽさが無くなるまで混ぜ、刻んだ素焼きのクルミを投入。

ラムレーズン…は私があまり得意ではないので少なめに。

できた生地を型に流して、160℃に予熱しておいたオーブンで30分から40分。

慣れないことをしたせいでここまでで2時間ほどかかっている。

「明日の授業午後からじゃなかったら死んでたな…」

全く、7並べを2人でやるなんてどうかしているのだ。

何が「負けた方は手作りの食べ物を相手に振舞う事」だよ…。

絶対今度何か奢らせてやる。作らせるのでもいい。

 「作ってきた?」

「ええ作ってきましたとも、勝利の栄冠を手にしたお兄さんのリクエストにしっかりお答えいたしましたよ」

ブラウニーの入ったタッパーを押し付ける。

「おーすごい、ちゃんとブラウニーの形してる」

「あたりまえでしょ、ブラウニー作ったんだから」

持ってきた小さいプラスチックのフォークを手渡す。

学生食堂の2階。授業が無いのかサボっているのかちらほら人がいて、チョコの香りのもとを探すようにあたりを見回していたり、友達と「なんかいい匂いしない?」と小声で話したりしている。

なんだか申し訳ない気分になりながら、莉里が黙々とブラウニーを消費していくのを黙って見つめている。

気持ちはわかる。

ブラウニーが完成したのは夜中の3時だった。

どれだけつまみ食いを我慢するのがきつかったか。

「ごめん、結構食べちゃった」

気付くとタッパーの中身は半分ほど減っていて、申し訳なさそうにする莉里がいた。

「へ?あ、じゃあ一口貰っていい?あと食べちゃっていいよ」

 甘すぎないけどチョコの味はちゃんとしていて、クルミの歯ごたえがちょうどいい。

レーズンの量もバランスが良くて、要するに俺好みの味。

莉里は帰りのバスが駅に着くまでひたすらさっきのブラウニーがどれほどおいしかったかを語り、別れ際に「また作ってくれない?お礼はちゃんとするから」とへたくそなウインクを披露した。

…そんなに喜んでくれるのなら、まあ、また作ってやっても良いかもしれない。

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