最後はお買い物で締めましょう

 「テメェら覚えてろよ!」と吐き捨てて去っていくきんぴらごぼうさんを見送ったあと、再び秘書さんとぶらぶらすることになりました。

 きんぴらごぼうさんとのお話しで時間を取られてしまいましたが、まだお家魔王城に帰らなきゃいけない時間ではないのでほっと一安心しました。秘書さんとの交流ができるのはいいことです。


 あっ、そうだ。結局きんぴらごぼうさんのお名前聞いてませんでしたね。また会った時に聞いときましょうか。



「魔王様、魔王様。今度はどちらに向かわれるのですか?」



 周囲のドン引きした空気にもめげず…というか、全く気にせずに秘書さんが話しかけてきます。案外図太いですよね、秘書さん。


 閑話休題。



「そうですねー。まだ時間はありますし、二人でお出かけした記念のものなんかを買いましょうか?」

「ああ、いいですねっ。お揃いとやらですか」

「はい、私と秘書さんでお揃いですよ。お揃い、いい響きですね」

「何だかとても嬉しくなる響きです」



 とてもほっこりします。んー、何のお揃いがいいんだろう。長く残るものがいいですよね。

 秘書……魔王……お仕事?お仕事…書類……ペン?あっ、羽根ペン!羽根ペンっ、使うこともできますし長く残ります!いいですね、流石私です。ふっすん。うむうむ、早速提案しましょう。



「秘書さん、羽根ペンのお揃いというのはどうでしょうか?」

「羽根ペンですか…いいですね、それなら仕事にも使えましょう。魔王様もやる気になられますかな?」

「私はいつでもやる気ですーっ。ただ、ちょっと、苦手なことが多いだけで」

「ふふ、冗談です。では羽根ペンを買いに行きましょう。わたくしの行きつけがあるので、そちらにご案内致しますね」

「はぁい、お願いします」



 秘書さんに先導されて辿り着いたのは、路地に紛れ込むように建っている古風な、ぱっと見お店とはわからないところでした。

 とてもいい雰囲気で、隠れた名店という感じがします。おおー、かっこいいですね!



「よく見付けられましたね?私だと見付けられずに、通りすぎちゃいそうです」

「ここの店主と知り合いでして、教えてもらったのですよ。そうでなければ、わたくしも見付けられなかったでしょうね」

「知り合いさんですか。きっといい方なんでしょうね」

「ただの変人ですよ」



 若干苦笑気味に教えてくれました。変人さん…むむ、どんな方だか気になりますね。さっさとお邪魔しちゃいましょうか。



「んと、お邪魔しまーす…?」



 からんころん。控えめなベルの音が店内に響き渡ります。店主さんは……寝てますね。淡い紫の髪をした、女の子です。年齢が見た目と合ってない系なのかな。


 あちこちをきょろきょろと見回すと、羽根ペンやガラスペン、インクや紙製品などがきれいにレイアウトされています。雑多に見えるけど、よく見ると考えて並べてることがわかりますね。こだわりですか。


 それにしても、店主さんは起きなくていいんでしょうか。秘書さんなんて我が物顔で店内うろついてますよ。あ、陳列棚の下の在庫用の棚開けちゃった。



「魔王様、よいものを見付けましたよ!」



 ぶんぶん手を振ってきます。秘書さん可愛い。

 とててと近付くと羽根ペンを二つ差し出してきます。一つ目はふわふわとした白の羽根のペン、二つ目はきりりとシャープな漆黒の羽根のペン。対照的で、お揃いという感じです。



「白い方が綿毛鳥の羽根、黒い方が大黒燕の羽根だそうです。これならお揃いで、色違いですよ」

「お揃いで、色違い。いいですね、流石秘書さんです!」

「ふふ、ありがとうございます。魔王様はどちらがよろしいでしょうか?」

「んー、そうですね…」



 両方受け取り、秘書さんを背景にかざしてみます。白と黒、どちらが秘書さんに似合いますかね?

 真っ赤な髪に、黄金の瞳。……うーん、黒かな。そっちの方が秘書さんのイメージにも合いますしね。秘書さんはきりっとした感じですもん。



「私は白がいいです。なので、秘書さんが黒ですね」

「……わたくしに合わせたでしょう。魔王様がお好きな方でよろしいのに」

「秘書さんに似合うのでいいんです。それに、私はどちらも気に入りましたし」

「ご配慮、感謝申し上げます。それでは購入してきますね」

「え、あっ、駄目です!私が払うんですよーっ」



 お昼ご飯はそれぞれが払うことになっちゃいましたから、お土産代は私が出すんです!魔王様ですし、お給料は使い切れない程いっぱい貰ってますからね。

 ひょい、と秘書さんから羽根ペンをひったくります。あわあわしてる秘書さんは放置して、お会計しに行きます。あ、そういえば店主さん寝てたんでしたっけね。起こしましょうか。



「店主さーんっ、起きてくださーい。お会計お願いしたいですー」

「………むう、……金貨四枚と銀貨五枚」



 もぞもぞと身動いでは顔だけ上げて、じっと羽根ペンを見つめるとぽつりと金額を言ってきました。腰の巾着袋からお金をぴったし取り出して手渡します。



「……ん、ちょうど。まいどあり」



 店主さんはぱぱっと羽根ペンをそれぞれ包装紙で包むと、また机に突っ伏して寝始めてしまいました。

 くるり振り向いて秘書さんに黒の羽根ペンが入った方を差し出しては、にっこり微笑みます。苦笑交じりながらも嬉しそうに受け取る秘書さんがとても可愛らしく、印象的でした。



 お昼ご飯はおいしかったですし、きんぴらごぼうさんとはお友達?になれましたし、秘書さんとのお揃いを手に入れましたし……。

 今日は、とてもいい休日になりました。





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まおうさまのおしごと 杜鵑草 @Hanabira_Hirari

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