きんぴらごぼうさんとの対話です?

 カフェから出て大通りを歩いていると、突然背中に衝撃を受け、思わずつんのめって転んでしまいそうになりました。



「オラオラ、どこ見てほっつき歩いてんだよ!!」



 わわ、大っきな声。耳の近くで喋られたら耳が聞こえなくなっちゃいそうです。ここは私が文句を言うべきところでは?ぶつかってきたのは向こうなのに、変ですね。

 こういう人を…てんぷら?かぴばら?ええと、なんでしたっけ。きんぴらごぼうみたいな名前だったとは記憶してるんですけれど。


 ともかく後ろを振り向くと、金髪をつんつん立たせた前衛的な髪型と顔をしている男の人がいました。誰だろう。きんぴらごぼうさんとかかな。



「このオレ様にぶつかるとはいい度胸じゃねェか。おん?捻り潰されたいのかよ、餓鬼が!」

「むう、私餓鬼じゃないですってば……んーっと、そうですね、捻り潰されたくはないかな?」

「チッ、舐めてんのかテメェ!!」



 何だか因縁とやらをつけられている気がします。別に、舐めてる訳でも侮ってる訳でもないんですけれどね。餓鬼呼ばわりされたのは、ちょっぴり、やでしたけど。


 ずっとこんな声で叫ばれても困りますし、さっさと謝って退散しましょう。そう思い口を開きかけたその時、私の隣から物凄い殺気が辺りにまき散らされました。無秩序な暴力。ずっと静かに傍観していると思ったら。ああ、秘書さん、怒ってしまったのかな。

 …さて、目の前の彼は顔面が真っ青を通り越して真っ白けです。流石に可哀想ですし、昼間からこれでは近所迷惑でしょう。止めることにしましょうか。



「秘書さん、秘書さん。もう大丈夫です。皆さん吃驚しちゃいますから、止めてくださいね?」

「……御意。今後このような不届き者が出ぬよう、注意して参りたいと思います」

「あ、あ、それは駄目ですよっ?私はお忍びなんですからね!」

「ふむ。畏まりました、主君の仰せのままに」



 こくんと素直に頷く秘書さん。不特定多数の目がある場では『主君』と呼んでくれる気配り上手の、自慢の秘書さんですね。



「ッ、テメェらオレ様のことを無視するんじゃねェよ!!」

「お黙りなさい」



 今度はしっかりと、きんぴらごぼうさんだけに殺気を向けてます。失敗を成功のためによく活かしたいい例ですね。

 それにしても、さっきまで可哀想な程震えてたのにこんなにもぴんぴんしてるとは、不思議なきんぴらごぼうさんです。髪型と一緒ですね。部下さんの訓練相手にちょうどいいかな?うむ、打診してみましょう。



「きんぴらごぼうさん。ぶつかっちゃってすみません、でも、大きな声でお話しすると周りの人も吃驚しちゃうので避けた方がいいですよ」

「え、は?……きんぴらごぼう?」

「きんぴらごぼうさん、貴方です。ほら、現に、周りの皆さん吃驚しちゃってるので」



 ほれほれと周りを指し示します。何か、ドン引きって感じがしますね。あれ、これって秘書さんのせいじゃ……怖いのでここまでにしときましょう、うん、それがいい。きっと、きんぴらごぼうさんが毎日毎日こんなことやってるんでしょう。そうしよう、そういうことにしておこう。



「はァ?それはオレ様のせいじゃ」

「吃驚しちゃってるので」

「あ、はい」

「それでも叫びたいなら、部下さんとの……にくたいげんごによるたいわ?とやらをすればいいですよ。私からも部下さんに言っといてあげますから!」

「肉体言語による対話ァ?部下さんとか…テメェ、ふざけてんのか?」

「ふざけてませんー!」



 ぷんすこぷんぷん。もう、私怒っちゃいますよ?きんぴらごぼうさん、お話はちゃんと聞いてくださいってば。ぶーぶー。



「一度連れてみてはいかがでしょう?わたくしがこの者を案内しましょう」

「それがいいですね!秘書さん、きんぴらごぼうさんのことよろしくです」

「最良の結果を、主君に」



 秘書さんにっこにこです。先程までの不機嫌さなんて吹っ飛んでますね。私としても提案した甲斐があります。



「コラ、勝手に決めんじゃねェ!!」

「きんぴらごぼう、一度教練場に来ますよね?」

「オレ様が行く訳」

「来ますよね?」

「……ああクソッ、行きゃいいんだろ、行きゃあさ」



 …ちょっときんぴらごぼうさんのこと忘れてたとかありませんからね、本当ですよ。

 秘書さんの真摯な説得?によって部下さんとの対話をすることになりました。やりましたよ部下さん、遂に私も『スカウト』をしました!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る