お昼ご飯おいしいです

 カフェに入ると、若い店員さんが席へ案内してくれました。席につくと早速メニューを手に取り、秘書さんとどの料理を食べるか相談します。

 私達が入ったカフェは人気店だったようで、どれもおしゃれでおいしそうな料理ばかり。迷っちゃいます。


 あーでもない、こーでもないと相談した結果、結局私はお肉とか葉物野菜を挟んだサンドイッチ、秘書さんはきのこのパスタの大盛りを頼みました。



「…秘書さんはこういうカフェに来たことはあるんですか?」



 料理を待っている間暇なので、雑談ついでに少し気になったことを聞いてみました。私の中では、秘書さんにカフェというイメージがなかったのです。



「はい。若い頃に、友人と何度か訪れたことがあります」



 そう答える秘書さんは昔のことを思い出したのか、うっすらと笑みを浮かべました。ちょっと、意外でした。けれど考えてみれば秘書さんも女性です、来たことがあるのは当然だったかもしれませんね。

 …ああ。前に見せてもらった秘書さんと部下さんとの手合わせで、猛獣のような獰猛な笑みを浮かべながら部下さんに突進していく秘書さんが頭にこびりついて離れないのは、きっと気のせいですよね。うん。気のせい気のせい。



「あ、魔王様。今失礼なこと考えましたね?」

「そ、そんなことはありませんよ。お昼ご飯まだかなって考えてただけです」



 心外だとでもいうようにぷくーっと頬をふくらまします。……秘書さん凄い。内心汗だらっだらですよ、もう。

 くすくすと面白そうに笑う秘書さん、絶対ばれちゃってますね。



「目が泳いでますよ」



 笑みを含んだ声、できの悪い弟を見るような表情で指摘をしてきます。

 いっつも喜怒哀楽ぜーんぶを隠してる秘書さんのようにはうまくいきませんね。きょろきょろしちゃってたみたいです。



「魔王様は感情を隠すお勉強をした方がいいですね。お人好しな性格が人間どもにばれれば、利用されてしまうでしょうから」

「お勉強ですか……難しそうなので、あんまりやりたくはないですね。それに…人間さんと会わなければ、利用されることもないでしょう?」

「大丈夫ですよ、毎日練習していればすぐに慣れますから。…否。万が一、ということもあります。わたくし達がお側におれば取り繕うことも可能ですが、今回のように城下町へ遊びに行ってらした場合、しばらくの間は魔王様だけで対処することになるのですよ?」

「うう、対処できる自信がありません……お勉強頑張ります」

「よろしい」



 満足げにうんうんと頷く秘書さん。……やりこめられました。勇者様はお優しいと聞くので、勇者様だけならば大丈夫そうですけれど。人間さんは悪い人も多いらしいですからね、用心は大事です。秘書さんが言ってましたしね、うむうむ。


 ぐでっと項垂れながら自分を納得させていると、ちょうどいいことに料理が運ばれてきました。



「こちら花豚肉と毒抜き毒草のサンドイッチ、踊りきのこのパスタでございます。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

「ではごゆっくりどうぞ」



 花豚は体表面に色鮮やかなお花がびっしりと生えている豚さん、毒抜き毒草はその名の通り毒を抜いた毒草…つまり草、踊りきのこはハイテンションで上下左右自在に踊り狂うきのこです。

 何かこう、名前も存在も変なものばかりですが、どれも食用として扱われているので大丈夫なんです。とってもおいしいんですよ。



「「いただきます」」



 ぱっちん、お手々を合わせて食前の挨拶です。

 サンドイッチは甘辛いソースがかけられていて、固すぎず柔らかすぎずの程よい歯ごたえの花豚肉とよく合います。無心でもしょもしょと食べてしまいますね。



「ごちそうさまでした」



 ふと、サンドイッチを食べているとそんな声が聞こえ、前を見ると秘書さんがパスタを食べ終えていました。……あれ、秘書さんってパスタ大盛りにしてませんでしたっけ?何で私よりも食べるのが早いんでしょう。生命の不思議ですかね。



「ごちそうさまです」



 秘書さんから遅れること約五分、ようやく私も食べ終わりました。私が遅いのか秘書さんが早いのか…永遠の謎ですね、わかっちゃいけない気がしたりしなかったり。


 お支払いを済ませ外に出れば太陽が真上に昇っていました。まだお昼、もう少しぶらぶらできそうだ。秘書さんとお話しできる時間がまだまだあることに安堵し、そっと息を吐き出しました。





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