秘書さんとのお出かけです

 これは、私が魔王様になってから、一ヶ月くらい過ぎたころのお話です。



 私はその日、秘書さんから翌日のお休みを貰ったんです。何か、魔王様はいっつも頑張ってるからー、って。


 確かに私も頑張ってるんですけど、私以上に頑張ってるのは秘書さんです。なので、秘書さんにもお休みを取るように言ってみたら、何と珍しいことに素直に受け入れてくれました!


 いつもは仕事仕事と言ってる秘書さんですけど、やっぱり、疲れていたんでしょうね。言ってみて正解でした!



 ということで、翌日は秘書さんと一緒に城下町へお出かけすることになりました。勿論、身分を隠して。所謂“お忍び”って奴です。



 今日の秘書さんは、いつもと全く違う格好をしていました。



 秘書さんは普段、まるで執事さんみたいな男の人が着るような服を着て、真っ赤な長髪を一つに束ねて、理由はよく分かりませんが男装をしています。秘書さんはすらっとした体型なので、男装もよく似合います。男装の麗人、だったかな?そんな感じです。


 けれど今日は、町娘が着るみたいなふんわりとしたワンピースを着ていました。凄く似合っていて、可愛いんですよ!



「よく似合ってますよ」



 そう声をかければ、嬉しそうにはにかんでくれました。こういうところが可愛いんですよねぇ。


 そんな秘書さんと連れ立って城下町に出かけていきました。




 ◇◇




「ほらほら、いらっしゃい!今日は葉物野菜が安いよー!」

「さぁさぁ、今日は大熊の肉が入ってるよ!見ていきなー!」



 やっぱり、何度来ても、この市場のかけ声には少し吃驚しちゃいます。皆さんが元気いっぱいなのは凄く嬉しいんですけど、元気があり余ってるみたいで、ちょっと驚きです。


 けれど、ここに来るとその元気をわけて貰ってるみたいな気がしてくるので、私は好きです。…秘書さんも、好きになってくれるといいのだけれど。



 ふと横を向けば、秘書さんが物珍しそうにきょろきょろしていました。何でしょう、秘書さんのそんな姿を見るのは初めてなので、不思議な感じです。



「…秘書さん、私、ここは凄くいいところだと思うんです」

「えぇ、わたくしもそう思います。このように活気がある場所は、心地よいですね」



 私の問いとも取れる投げかけの言葉に、秘書さんは微笑みを返してきました。



 思わず、どきっとしちゃいました。



 だって、いつもは仮面の下に表情を隠して、相手に悟らせないようにしている秘書さんが微笑んだんですよ?それにどきっとしないなんて選択肢、私にはありませんよ!


 そう。秘書さんはあれですね、部下さんが言っていた“ぎゃっぷ萌え”とやらの類いに入るんでしょうね。多分。



 そのあとは、市場を順に見て回りました。


 生鮮食品を扱う店、加工品を扱う店、生活用品を扱う店、娯楽用の本を扱う店、もういっそとでも振りきったと思われる超本格的な武具防具を扱う店、等々。


 様々な露店が出ていて、なかなか楽しい一時を過ごせたと思います。…秘書さんの微笑みも見れましたしね!



 露店を見回った後は、小腹が空いたのでお昼ご飯を食べに、大通りに面したおしゃれなカフェに入りました。





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