三題噺「青色」「洗濯機」「恐怖の山田くん」

みなかみ

三題噺「青色」「洗濯機」「恐怖の山田くん」

 ごぅんごぅんと、唸っている。怒っているんじゃなさそうだけど、苦しんでいないとはわからない。

 真っ白なユニフォームと泥だらけの靴下に、はちみつレモンとホイッスルをからませて、洗濯機に放り込んでグングン回す。ユニフォームは、駄々をこねて右に左に身を捩る子どものように、元気に動いて憎らしい。きっと、覗き窓からでは見えない靴下は、洗濯機の底でホイッスルをドリブルしているだろう。

 時計を見る。二時半。あと二十分もすれば、『クラスで人気の橋元くん』が出来上がる。出来立ての橋元くんを見たかったけど、はちみつレモンの香りが思ったよりずっと甘くて、見ていられない。甘い。あー甘い。

 見ているよりも、隣の洗濯機で新しい人を作ろう。

 レシピの本を手に取る。ハンドブック版だから、エプロンのポッケにも無理なく入って使いやすい。本当は、もっといーっぱい人が書いてある物がよかったけど、そうするとタウンワークと同じくらい重くて、調べるだけでも一苦労。わたしには、ハンドブックで充分。

 今日作るのは、とっておきの人だ。そのために、洗濯機を丸一日かけて黒く塗りつぶした。レシピにはそんなこと書いていなかったけど、そのほうが絶対にうまくいく。だって、わたしの心臓が、さっきからドックンドックンと歓声をあげている。

 まずは、洗濯機に水を入れながら、青色の絵の具を落としていく。ちゃんと水になじむように、溶かしながらゆっくり入れていく。そこに、少量の茶色も混ぜれば、暗澹とした渦が洗濯機の中に出来上がる。

 あとは、用意したものを入れて完成を待つだけだ。

 安いサンダル、カビの生えたホース。

 順番に取り出しては放り込む。

 薄汚れたシャツ、トイレの芳香剤。――芳香剤?

 準備する時は、高揚感の中、夢中で材料を集めていたからなんとも思わなかったけど、よぅく考えれば変な組み合わせだ。組み合わせが変なのはいつものことだけど、でも違和感と嫌な予感で、わたしの中にもしやと閃きが生まれる。

 ハンドブックのページをめくって、レシピを探す。

 あった。

 あったけど、やっぱり違う。

 わたしが作りたかった『絶対恐怖の山田くん』。その隣。

「トイレの花子さん……?」

 何、それ。

 ああ、台無し。せっかく時間をかけて準備したのに、まさかレシピを見間違えていたなんて。

 回りだした洗濯機は止まらない。橋元くんの洗濯機と目の前の洗濯機と、二重奏のように低く唸り続ける。テノールとバス。そんなのやめてよって言いたいけれど、凄い勢いで首を横に振る洗濯機は、たぶん頑固に動くのをやめないだろう。

 無駄なものが出来上がってしまう。でも、また作ればいいや。

 余分に出来てしまうこれはいらないから、明日学校にでも捨ててこよう。ばれないように、あまり人が来ない旧校舎のトイレに流すのがいいだろう。

 うん、そうしよう。

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