第3話 猫が私
私は自分で言ってはなんだが恵まれていた。
容姿もそこそこよく、勉強もできた。
何より出来損ないの兄がいたため
病院を継がせたい両親は必死だった。
「あいつなんていなきゃよかったのに」
兄の口癖だった。
私がその言葉を気にかけることはなかった。
むしろ兄を完全に下している気がしてうれしかった。
小五の時、問題が起こった。
塾の帰りだった。
運動会の練習があったため、
連日の疲れからかだんだんと
意識が遠くなっていくのを感じた。
目を覚ますと天気は雨上がりだった。
起き上がろうとするも、
明らかに目線がおかしい。
水たまりを覗き込む。
そこには私に似た猫の姿が映っていた。
その日、私は途方に暮れていた。
ひたすら歩き続けた。
途中カラスに襲われ前足に怪我を負った。
とても辛かった。
それが私のはじめての苦労かもしれない。
やっとの思いで家に着くと
私は家のドアをペシペシとたたいた。
ゆっくりとドアが開くと母が顔をのぞかせた。
こちらに気付いていない。
「ニャーーー」
私は最大限の力を絞り鳴いた。
すると母は私をゆっくりと抱き上げ、部屋の中に入り、ソファーへ寝かされた。
母は慣れた手つきで怪我を処置し始めた。
家についた安心感からか、
眠りについてしまった。
目を覚ますと兄が帰ってきていた。
「こんな問題も解けないのかおまえは!」
兄の部屋から罵声が聞こえる。
兄の部屋のドアには少し隙間があった。
そこから兄の部屋を覗く。
殴られていた
兄は一切抵抗していなかった。
ただずっと下を向いて殴られ続けていた。
私に気がつくと両親は私を抱え、
リビングへ移動した。
「あいつがいればよかったのに」
兄のつぶやく声を聴いた。
私は少しうれしかった。
あれだけ兄に嫌われていた私を、
求めるなんてことあるはず無かったから。
兄のためにも私のためにも
早くもとの体に戻ろうと
決意したのはその時だった。
リビングにつくと私はカレンダーを見た。
あの日からちょうど1年経っていた。
私はその日の夜から兄の部屋に入り、
兄とともに寝ることにした。
少しでも兄の助けになればと思ったから。
その日を境に兄の学力は、
ぐんぐんと伸びていった。
わたしもいろいろな方法で、
もとに戻る方法を探した。
1年経ったある日私は家を出た。
1年前のあの場所へ
あの時間に間に合うように。
兄が追いかけてきていた。
私はそれを振り切るために全力で走った。
意識が遠のく
あの日と同じだ。
どんどん薄れていく。
気付けば朝だった。
私は私に戻っていた。
とりあえず家に戻ることにした。
ドアを叩くとゆっくりと扉が開く。
今度はニャーではなくしっかりと声を発する
「ただいま、お母さん。」
その瞬間母は泣き崩れた。
しばらくすると父も帰ってきた。
とても驚いていた。
それから母にいろいろな話を聞いた。
一年前に兄と飼っていた猫が
いなくなった話も聞いた。
「お兄ちゃんがいなくなったの?」
私は驚きを隠せなかった。
猫がいなくなったことは知っていたが
兄がいなくなるなんてことは、
考えていなかった。
兄のために帰ってきたのに。
その日は寝ることにした。
次の日うちのドアの前に、
猫が帰ってきていた。
帰ってくるはずのない猫が
その猫は私にどことなく似ていた。
その猫について知りたかった私は
ドアの前にいるその猫を抱きかかえた、。
するとその猫は勢い良く、
兄の部屋にかけていった。
「そこはお兄ちゃんの部屋だから
入っちゃだめだよー」
そう言いながら私は猫を抱きかかえた。
すると猫はまた勢いよくかけていった。
やっと帰ってきた猫がまたいなくなった。
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