春の幽霊
水無月 灯
第1話
暗い、夜の色濃く残る部屋の中だった。ぼぅっと突っ立っている自分を、見詰める自分を見詰めている。乾いた唇は言葉を吐き出さない。青白い肌にそばかす、虚ろな目、青黒い隈。気のせいかもしれないけれど、伸びきった前髪に隠されている疲労の跡が殊更際立って見える。
部屋の隅には洗濯物が奇妙な山を形成している。鏡は色々なものを映すものだ。日常、疲労、自分、相手。後ろに立っている、霊とか。ぼんやり、しかしはっきりとした光のもやが人の形をしている。
かれこれ一時間程このままで、怖くてそれの顔を見ることが出来ないままでいる。なんか目が合ったら呪われそうだ。ちょっと、怖い。それでもこのままなわけには行かない。
少し怖いけれど顔を上げる段々と見えてくる顔は何故か、見覚えがあるように見えた。
春の幽霊 水無月 灯 @hoshitani_renka
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