エピローグ
春華はゆっくりと目を開けた。
天井が見える。最初は自分がどこにいるかわからなかった。ベッドに寝ていることに気がついてようやく頭がはっきりする。起き上がろうとするが力が入らない。
「一週間も寝たきりだったんから急に動かないで」
聴き慣れた声に振り向くと玲奈がにこやかに微笑んでいた。
「おかえりなさい。お疲れ様」
「ただいま。玲奈もいたよ?」
「あははは、そうだったね。でも、ふくろうだし。うふふ」
玲奈の後ろには、見慣れない医師が微笑んでいる。背後に立つ看護師達の顔に
その頃裕司も目を覚ましていた。
「うおっ‼️ なんだこりゃ」
裕司は起き上がろうとして身動きが取れなかった。体を見回すとベッドに手足・体も固定されていた。
「看護師さーん」
裕司は看護師を呼んだが、その声はちょっと情けない雰囲気だった。ナースコールも押せなかったのだから仕方ない。
しかし、耕輔はちょっとかわいそうだった。耕輔が目を開けるとベッドのそばには誰もいなかった。だけでなくベッドの周りには何も置いていない。マットも何もなくプラ板を敷いたベッドの上に寝かされていたものだから体のあっちこっちが痛くてたまらなかったのだ。とりあえず、看護師を呼んでひと心地着くまでしばらくかかってしまったのは気の毒だった。
三人が退院したのはそれから二日後だった。
新学期を二日後に
入院中の魔法能力の検査で四人とも、『ランク』の向上が認められて
裕司は退院後すぐに実家に帰ってしまいそれ以来顔を見ていない。携帯でちょっと話したときに実家の修行を見直すと言っていた。きっと今回の旅で得ることがあったのだろうと耕輔は
本人ははっきりした自覚はない。ウィスタリアでは誓約の縛りがあるため常に自覚と覚悟が要求された。それは、別の意味でとてもよかったのだろう。
ふと視線を上に向ける。たった一週間だったけど頭に感じていた重みが懐かしい。どことなく切なさを感じ、手の中のトリガー(ウィスタリアで使った変な楽器)のミニチュアを握りしめた。ともするとウィスタリアの風景や、人々の顔が心に浮かぶ。あの世界での経験は耕輔にとって宝物となっていた。それはきっと裕司も違いがないはずだ。
裕司はあの剣のミニチュアを持っている。どちらも、退院の日に春華が魔法で作ってくれた。彼女の子供の頃の得意魔法、精度の上がった造形魔法で金属のコップから作ってくれたのだ。そして、あの魔法道具は春華のトリガーになっている。きっといまは手元のハンドバッグにはいっているのだろう。玲奈はフクロウのフィギュアを作ってもらったらしい。
そのトリガーに春華とのつながりを感じている。それは感情的なものだけではなかった。春華のそばにいるとあの魔法道具を通じた共鳴で、魔法力が大幅に上がるのだ。自分はなんだか春華(ご主人様)の使い魔になったような立場だなあ、などと耕輔は
それは別にして、耕輔は向かいに座り玲奈と
張り詰めた糸が解けたかように、晴れやかな顔をして楽しそうに話をしている。時折あげるコロコロとした笑い声が心地よい音色を上げている。ここには陽の光に輝くばかりの美少女がいる。耕輔は思わず、ため息をついた。そんな耕輔に二人とも気がつかずに盛り上がっている。あのキスの後、距離が近くなったような気は、しない。
といって嫌われているわけでもなさそうだ。ふと春華の視線を感じることはあるが、目を向けるといつもすでに視線は外された後だった。
思えばあの事故から五年、後悔で夜中に目を覚ますこともあった。今回の事故(冒険)は結果として予定された過去への因果だったのか、いまは全てがうまく行っている気がする。悪夢ももう見なくて済むような気がする。この先、春華と進展するのか友達として終わるのかはわからない。それを考えすぎてもしょうがないと
当の春華は耕輔の目覚めのキスをどう
なので、キスのことは話題にならないように注意深く振舞っていたし、親しげになりすぎないように気をつけていた。それ以外にも、また自由に使えるようになった魔法のことに夢中で、今は他のことに気持ちを割く余裕はなかったのだ。
—— ☆ ☆ ☆ ——
ここはとあるオフィスの一室、
「おい、これどう思う?これはちょっと面白そうだぞ」
そのページにはこうあった『ある魔法アイテムによる共鳴と魔法力の飛躍的向上およびエネルギー保存則についての考察 原田大祐』
上がった魔法力に比例するかのように波乱の二年生の新学期が始まるのだった。
魔法の国編 了
お嬢様は魔法が得意 灰色 洋鳥 @hirotori-haiiro
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