沈黙の森
樹高は30mを超える木々が乱雑に立ち並び、
木々の間から小鳥のさえずりや、獣の叫びのようないろいろな音が聞こえる。中には腹の底に響く、どんな姿形なのか想像したくないような声もあり緊張が走る。それが、自分たちの周りを取り囲むように様々な方向から聞こえることもあれば、ほとんどない時もある。それだけでもここが異境なのがわかる。
しばらく行くと、地鳴りが響いてきた。地震?と思っていると定期的に
これは?と疑問に思っているとアギーが小さな声で叫ぶ。
「あそこの木の陰、早く隠れて」
もともと小さいが更に押さえ込むような、アギーの小さな声の異様さに考える間も無く、急いで木の陰に身を隠す。二本の木が
足を上げ、地面に下ろすたびに地面が揺れるのだ。足の上の方は木々に隠れて見えない。しかし、それは巨人を想像させるに十分だった。足はちょっと立ち止まったように見えたがまた歩き出し、地響きとともに見えなくなった。地響きはしばらく聞こえていた。
「あれは、巨人?」
どちらともなく、誰に聞くともなく質問の声が上がる。
「そう、この森は巨人族のテリトリでもあるの。
あいつらは人間を見ると面白がって踏みつぶそうとするのよ。
近寄らないに限るわ」
アギーがそういうのを聞いて、もう出会いたくないなと二人は目を見合わせた。
少し待って、巨人の足音が聞こえなくなってからそこを離れた。
しばらく歩いて三人も多少緊張が解けてきた。(アギーはずっと耕輔の頭の上なので歩いていると言っていいのか)さっきまでの反動か下校時のような無駄話をし始める。
アギーの好奇心と気安さに——内心に不安は残しつつも——すっかりいつもの調子に戻った二人は、アギーの質問に答えていた。主に耕輔がしゃべっている。祐司は周りに神経を配っているので黙りがちであった。
「それでね。
あれだけで授業のやる気がゼロになるよ」
「へー、あなた達学校ってところで集まって勉強するんだ。
で、何を習うの」
「なにって、数学とか理科とか魔法とか」
アギーが驚いて声を上げる。
「なに⁈
あなた達、魔法を習うの?
魔法は生まれつきのものでしょ、へんなのー」
「ここではみんな魔法を使えるの?」
アギーの言葉に疑問がわく。
「だいたいはそうね。
まあ、種族によって違いはあるけど、人間は使えない人の方が多いかな。
あなた達は使えるでしょ。
そんな格好してんだから」
そんな聞くまでもないことなぜ聞くのかと不思議そうな顔と声色をしている。
「格好って?」
「耕輔は吟遊詩人なんでしょ。
吟遊詩人が魔法を使うのは当たり前じゃない。
それに祐司は魔法戦士でしょ、それで魔法が使えないという方がびっくりよ」
自分の格好にそんな意味が有ったのかと二人は喫驚してしまった。それで思い出した質問をしてみる。
「僕らは自分たちの言葉を話しているんだけど、アギーには通じている。
アギーは日本語って知ってる」
アギーは
「なに言ってるの、あなた達はウィスタリア語を喋っているわ」
祐司はアギーの口元を凝視していたが、どうも日本語とリズムが違うことはわかった。でも、それ以上のことはわからなかった。
祐司は
アギーが思い出したように二人に話しかける。
「あなたたち別の世界から来たのよね」
二人が
「なら、どこから来たかを聞かれることがあったら、その事はなるべく伏せたほうがいいわよ」
二人が質問を声にする前に理由を説明した。
「この世界が災厄にあるって言ったわよね。
中にはその災厄は別の世界から来ているんじゃないかと疑っている人もいるからね」
「へぇ、そうなんだ。ありがとう注意するよ。
でも、アギー、随分世の中に詳しいんだね」
その質問には、アギーがいた辺りに人気がなかったのにという疑問とセットだったが、アギーはそれには気がつかなかった。
「妖精の噂ネットワークは伊達じゃないわよ。
見てきた事、聞いてきた事が魔法でその場にいるように伝わるんだから」
「へえ、すごいね」
アギーの自慢げな説明に、耕輔は素直に感心していた。
その時アギーが声を上げる。
「あ、そこね。そこを左に入っていく」
アギーが指差した先を見ると目立たないが、木の
真っ暗で先が全く見えない。
「えー、こんなとこなの」
露骨に嫌な顔をする。
「やめるなら今のうちよ。
フクロウ婆やは
耕輔は勇気を振り絞って決意の返事をする。
「大丈夫。これが最善なんだよね」
「最善かどうかはわからないけど、まあ今よりわかることはある
「とにかく進もうぜ」
祐司が先に立ち森の中に分入って行く。
昼間の
木々が重なり20m先も見えない。周りは暗く足元の怪しい
足元がふわふわしてきたのでよく見ると分厚い
「なるほど
祐司がつぶやくと、それに応えるようにアギーが『この先にフクロウ婆やの菴りがある筈』と真面目な声で告げる。
少し進むと周りが明るく
大きめの隙間は出入り口として使っているのか、苔の絨毯で覆われている。
入り口の高さは1mと少し、耕輔が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます