第5話『ドイツ』
諸君、初めまして。私はドイツと言う者だ。
イギリスやフランス、イタリア、スペイン……他にも多くの国がいるが、私は彼女達と『欧州連合』と言う名のマンションに住んでいる。つい最近、イギリスが引っ越しの準備を始めたらしい。彼女も何か、思うところがあったのだろうな。
私個人の経歴を、つまらないものだが述べさせてもらうよ。……私は名前がよく変わる国だった。最初は確か……『ドイツ帝国』だったかな。宮廷の華やかな生活に、私も憧れたよ。
帝政時代にロシアやオーストリア、アメリカなんかも巻き込んで、『第一次世界大戦』が起こった。私はボロ布の如く叩きのめされてね。賠償金を払わされるハメになったんだ。
次は『ワイマール共和国』。諸君の中に、世界史に詳しい者もいるだろう。『ワイマール憲法』という単語に、心当たりはあるかな?
あれは『世界初の民主憲法』と言われ、後に日本の憲法にも影響を与えたらしい。詳しい事は知らんがね。
……だが、平和はいずれ動乱に変わる。『ナチス』だよ。彼らは最初のうちは、地方の小さな政党に過ぎなかったが、『ヒトラー』とかいう髭の男だ。彼が党のトップになると、一気に国政を操るまでに成長したんだ。
私も彼の演説を見に行ったが、見事なものでね。民衆は歓喜に沸き、彼へ熱狂的な視線を向けていたよ。『催眠術にかかったように』ね。
その頃の私は、イタリア、日本と『同志』だった。私は過去の過ちから何も学習していなかったようでね。今度は『前』の比じゃないレベルの大戦________『第二次世界大戦』を起こした。私はイギリスの船を良いように沈め、彼女の怒り狂った様を見てほくそ笑んでいた。
ロシアはその頃、『ソビエト荘』に住んでいてな。私は無謀にも、彼女達に挑んだ。最初のうちは勝ちを重ねていたが、彼女達も馬鹿ではない。徐々に私は負けを喫し始めた。
『ソビエト荘』の面々だけでなく、アメリカなども相手にしなければならない私には、苦しい戦いだった。
ロケット花火やその他色々なものを作っては使い、戦ったよ。……だが、彼女達の力は圧倒的だ。確か……、一九四五年の四月の終わりだったかな。ヒトラーは地下壕で自殺した。死ぬ直前に結婚した、彼の妻と共にね。
終戦から幾分か経って、アメリカやイギリス、フランスに加え、『ソビエト荘』の面々が、私の家に上がり込んできた。
私の家の西側にアメリカ、イギリス、フランスが居座り、東側に『ソビエト荘』________主にロシアが居座った。
そしてある日突然、私の妹と言い張る、私そっくりの少女が、家に住み着いた。
彼女は住み着いてすぐに壁を作り始め、それを『ベルリンの壁』と呼んだ。
『妹』は『ソビエト荘』の掲げる思想に傾倒していたらしくてね。毎日、ロシアや他の『ソビエト荘』の面々と、何かを話しているようだった。
あの頃はアメリカとロシアの仲は最悪だった。『ソビエト荘』の建物から、少し離れた『世界荘』まで、ロケット花火を積んだラジコン飛行機が、頻繁に飛んで来ていた。
その度に日本がラジコン飛行機を飛ばしていた。彼女の部屋の位置的にも、『ソビエト荘』に近かったからな。ほぼ毎日飛んでくるから、疲れで日本の顔がやつれていったっけな。
その何年か後、リトアニアが『ソビエト荘』に対する抗議を行ったんだ。「私はもうここではやっていけない。ここを出て、自由に生きたい」と。『ソビエト荘』の住人達は、彼女の抗議を受けて、どうしたと思う?
________強引に鎮圧したのさ。ロシア直々にリトアニアの家に乗り込んで、殴る蹴るの流血沙汰になった。一九九一年の事だった。
一応言っておくが、
……そんな『ソビエト荘』も、遂に終焉を迎えた。『ソビエト荘』住人達の民主化は続き、
ロシアも大層苦労したそうだ。彼女の心の中では、『共産主義革命を目指すもう一人のロシア』と、『民主化を目指すロシア』がせめぎ合っていた。結論から言えば、ロシアは民主化を選んだ。そして新しく出来た緩やかな連合が『CIS』。……詳しい事は割愛するが、まあ、女子会のようなものと言えるのだろうか?
『ソビエト荘』が解体されてからのロシアは、『世界荘』に引っ越してきた。『ソビエト荘』時代から仲の悪かったアメリカとは、大分打ち解けたように思うよ。
________さて、ここまで私の歴史や、東側の事を話してきたが、どうだったろうか? 私は長く生きてきた中で、色々な罪を犯した。『あの人種は劣等である』と勝手に思い込み、ガスで無残に殺した事もある。それらの罪は、私が死ぬまで許される事は無いだろうね。
……すまない。しんみりさせてしまった。お詫びにビールでもどうかな? あまりそれらしいのが飲めなくても大丈夫だ。『ヴァイツェン』という品種があってね。これは苦味が少なく、フルーティーな味わいが特徴だ。
一口、ぐっと飲んでみてくれ。
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