第4話『イギリス』

 ごきげんよう、皆さん。私、イギリスと申します。本当の名前は少し長いので、どうぞお気軽に『イギリス』と呼んでくださいな。

 私は小さな国ですが、これでも昔は、七つの海を支配した、超大国でしたのよ? ……まあ、今となっては、アメリカさんにその座をお譲りしましたが。

 日本さんとは、一時期仲良くさせて頂きましたわ。……昔、大喧嘩をいたしましたが。

 日本さんの作るお料理は、中々に美味しくて、フランスにも勧めてみましたの。そうしたら彼女、「日本さんと『究極の美食』を追求する!」と言って聞かなくなったんですの。

「あら、イギリスさん。お料理出来るようになりました?」

「フランス……余計なお世話ですわ。貴女こそ、『究極の美食』は見つかりましたの?」

「そんな簡単に見つかったら、『究極の美食』とは言えませんよ。……あ、貴女のは、『究極の粗食』でしたか」

「言ったわね!! 私の伝統的な料理を『粗食』だなんて!」

 やっぱりフランスは嫌いですわ! 今こそフランスを滅ぼすべきなのです! 他国の料理を馬鹿にするなど、滅んで然るべきです!!

「私にはジャンヌ・ダルクがついていますから」

「あら、ジャンヌは『魔女』とされて、火あぶりの刑になったのでは?」

「ふふ。ジャンヌは今も、私の心の中で生き続けているんですよ」

「亡霊にしがみついて、情けない……」

「む、イギリスにフランス。何をしている?」

 あの服は……、ドイツさんですか。珍しいですわね。彼女がここにいるだなんて。

「あら、ドイツさん。この方フランスが、私を粗食だなんだと愚弄しましたの」

「事実を言ったまでですよ。あなたはもう、『昔のように』栄えてはいないのですから」

 ぐ……。確かに私は昔のような力はありませんが、それでも半分……、いえ、四割くらいの力はありますのよ?

「……イギリス、フランス。部外者の私が言うのもなのだが、お前達で『究極の美食』とやらを探したらどうだ?」

 フランスと、『究極の美食』を探すですって?

「私はビールとシュニッツェルこそ至高と思っているが、お前達は違うだろう?」

「ローストビーフこそ至高ではなくて?」

「いいえ、フォアグラにワインが一番なのです」

 ……話し合っても無駄かしら?

「待て。そういう事では無い。……フランス、お前が探しているのは何だ?」

「『究極の美食』です。未だに見つかっていませんがね」

「フランス、私が思うに、『究極の美食』は既に見つかっている」

「何故です?」

「お前の家では、フルコースが出るんだったな」

「何の話ですか? 『究極の美食』の話はどこへ?」

「お前が真に『美味い』と思った料理で、フルコースを作れ。それが、『究極の美食』だと思うのだが、どうだろうか」

 つまり、フランスが今まで食べた中で、一番美味しかった料理をフルコースにするということですか。フランスも、盲点を突かれたことでしょう。日本さんのように言えば、『灯台下暗し』……だったかしら?

「前菜はいつも通りオードブルに、スープはロシアさんのボルシチ、魚料理はイタリアさんの舌平目のフィレンツェ風、肉料理は中国さんの北京ダック、ソルベをいれて……、イギリスのローストビーフ、野菜もいくつか必要ですね。甘味は日本さんにようかんを頂きましょうかね。ちょっと奇をてらって、木苺も良いわね。そしてイギリス」

 フランスは私の方へ向き直ると、ピシリと私を指差して、こう言いました。指差すのは失礼ではなくて?

「____イギリス、あなたが食後の飲み物を提供してください。どんな飲み物よりも、私のワインよりもずっと美味しい、そんな紅茶を頼めますか?」

 この方、私を信頼して、こんなことを言っていますの? ……まあ、良いでしょう。

「フルコースのフィナーレに相応しい、最高のお茶を淹れますわ。ご心配無く」

「粗末な茶葉など使わないでくださいね?」

「私を誰とお思いで? ちゃんと茶葉を見繕いますから、あなたはフルコースを揃えなさいな」

 何せ私、何十年も前から、紅茶を淹れていますから。その辺のマイスターとは、格が違うのですわ。

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