第3話『ロシア』

 私の名前はロシア。

 昔はつるんでた仲間と一緒に『ソビエト』なんて呼ばれていたわ。ただ、『ソビエト』っていうのは住んでいたアパートの名前で、私自身はそのまま『ロシア』だったわ。

 アパートの名前は『ソビエト荘』で、私の他に、十四人くらい住んでたかしら。

 ウクライナは手先が器用で、よくロケット花火を庭で飛ばしてたわね。

 ベラルーシは……あの子はちょっと特殊ね。

 いつも私にくっついてきて、『お姉様』って呼ぶの。気に入らないことがあればすぐ怒るし、自分の言語があるのに、わざわざ私の言葉ロシア語を話そうとするし……正直、あんまり好きじゃなかったわ。

 ……話がずれたわ。戻しましょう。

 私も昔はドレスを着て、『クレムリン』っていう宮殿で、ダンスを踊ったりしたのだけれど……もう昔の事よね。

 そして、『ソビエト荘』に住みだしてから、近くに住んでたドイツが、『ファシズム』だか『ナチズム』だか言う変な考え方に傾倒して、大変だったわ。彼女の部屋を漁ったら、チョビヒゲのおっさんのフィギュアが出てきたし。……私の部屋にもフィギュアが八体くらいあって、『レーニン』とか『スターリン』って名前つけてたわね。私のお気に入りは『フルシチョフ』で……って、これじゃあドイツと変わらないわね。

 もう三十年くらい前になるかしら。珍しく『ソビエト荘』から外出して、『世界荘』に行ったの。アフガニスタンの部屋に上がり込んだら、アメリカにぶん殴られたわ。何でなのかしら。私はただ、知り合いだったアフガニスタンが、アメリカと仲良くしてるのに焼きもち焼いただけだったのに。

 ……こんな時間に誰かしら? ポーランド? ルーマニア?

「夜分にすいません。ロシアさん」

「あら、ウクライナ。もう遅い時間よ。何してたの?」

「いえ、資源の話で」

「もうヤバいの? こないだ渡したばかりじゃない」

「ごめんなさい……でも、本当に危機的な状況なんです。私のアクセサリー領土を勝手に盗った貴女に頼るのは不本意です。でも、私は貴女がいないと生きていけないんです……」

 さすがにちょっと可哀想ね……。この子はコンロのガスを私から貰ってる状態だから、それ関係で助けてあげないと。ガス料金滞納してばっかりだけど。そろそろガス料金渡してくれないと私もキレそうだけど!

「分かったわ。色々助けてあげるけど、ガス料金きっちり払ってもらうから」

「はい。ロシアさん」

 この言葉に何度騙されたか……。見た目は誠実そうなのに、意外と腹黒なのよね。ウクライナは。

「よお。ロシア。女連れ込んで何してんの?」

 げっ、アメリカ……。面倒なのが来たわね。

「ウクライナよ。……っていうか、人ん家に勝手に上がり込まないでくれない?」

「おっ? アフガニスタンの部屋に土足で上がり込んだのは誰だっけなあ?」

「くっ……言い返せない……」

「あーいや、長居するつもりはねえよ。ジョージアん家でちょっと話し込んだ帰りだからな」

「長居なんてしたら追い出すから」

「へいへい。やっぱお前怖いわ。ウクライナ、さっさと帰った方が良いぜ。こいつ何するか分かんねえし」

「はい。もう少ししたら帰りますから」

「じゃーなーロシア。良い夢見ろよ」

 何あの女! 私のやることに一々ケチ付けて、面白いの!?

「ウクライナ、あんた、あんなのと関わったりしちゃダメよ。あんたは私がいないと生きていけないんだから」

「は、はいい……?」

 あの女、ウクライナに手ぇ出したらボロ雑巾みたいにぶん殴って、シベリア送りにしてやる……。

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