第三話「本音」
香織は手紙をもらったあの日から、少し直人を避けるようになった。
疑問と不安を抱えながらも、笑顔でみんなと接するようにした。
(あのことが本当なら…受け入れられるかもしれない)
「加藤先生…」
「なんだ?」
「私…それでも加藤先生のこと受け入れますから!」
「え?」
「加藤先生があのことを教えてくれたのは、私を信頼しているんだと思います」
「そうだ」
「そのことについて詳しく話すよ」
「それは俺が、ここに来て間もない間のことだった。ある患者さんが交通事故で植物人間になって、一ヶ月。患者さんの家族はその人をこれ以上苦しい思いにさせないで、命を終わらせてくれとその医者に伝えたんだ。その後、蘇生処置を切断したんだ。その医者は、今でも心痛かった。患者を助けられなかったと」
「その医者は正しいことしました。だから、そんなに自分を責めなくてもいいと思います。確かに命を助けるのは医療関係者の仕事です。ですが、私たちには不可能な時だってあります。だからこそ患者の笑顔を取り戻すのが、私たちにできることではないのでしょうか?」
(そこまで考えていたとはな…)
「やっぱり君に話して良かったよ」
直人は嬉しそうに微笑んだ。
「加藤先生の笑顔が見れて嬉しいです」
「休日予定あるか?」
「いえ、特に…」
「今度の土曜、君と出かけたいんだ。いいか?」
「は…はい、分かりました」
直人が待ち合わせの時間を伝えた後、仕事に戻った。
(初めて誘われた!嬉しいな…)
香織は顔を赤く染めながら、土曜が来るのを楽しみに待っていた。
「飯田、待ったか?」
「いえ、私もちょうど来たところです」
「そうか。では行こうか」
「はい!」
一緒に行った所は、素朴だけど、綺麗なカフェだった。
「あの…加藤先生」
「なんだ?」
直人は静かにコーヒーを飲んだ。
「なんで、ここに来たんですか?」
「こうして君と二人きりでいたかったんだ」
ドキッとした。
(もしかして、加藤先生は…)
緊張しながら、香織は直人に聞いた。
「好きな人いますか?」
「いるよ。誰かはいずれ分かるよ」
「飯田は?いるか?」
「はい、片思いでちょうど一年になります」
「一年か…。長いな」
「そうですね。でも、その分彼のことがたくさん知れて嬉しいです」
「そうか。その恋が実るといいな」
「はい!」
「夕日…綺麗だな」
「そうですね」
「こうして飯田と話せて嬉しいよ」
「また、誘ってもいいか?」
「もちろんです!」
香織は直人に優しく微笑んだ。
(香織…君を幸せにしたい)
直人は香織の笑顔を見てこう思った。
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