第3話

  自治体に文句をつけてもはじまらぬから、私は姪に話しかけることにした。


  「しいちゃんはさ、最近なんのアニメが好きなのかな」

  4歳になったばかりの頃はプリキュア(私はマックスハートまでしか知らない)と答えていたが、来年で小学生である彼女、上司の娘は小学校に上がったとき「プリキュアなんてちっちゃい子の観るやつやん」とボーナスから捻出したプレゼントで渡したジグソーパズルを受け取り拒否された話を聞いていた。

  「アニメならゆーりおんあいすかな。おかあさんがみてたのを見てた。いっしょになんかいも見てるし、くるーってひゅーってなるのがいい」


  姉の趣味は相変わらずのようだ。

  「おっちゃんがオススメするのは、ゲゲゲの鬼太郎かな。ええこと言ってるアニメやで」

  「いやん、見た目がこわいやん」

  手足から滴るのは炎天下による発汗なのか、しかし鉄柵を溶かしてしまうほどの硫酸めいた成分を分泌しているのは事実だ。

  「喉とか渇いとらん?」

  「平気やけど、ファンタが飲みたい」

  仕方がないから、あたり見渡すがチェリオの自販機のみであった。

  「しゃあないからコンビニに行ってくるけど、知らん人についていったらあかんで」

  「うん」

  坂道を下るとすぐに交差点に突き当たる。横断歩道を渡るとファミリーマートがある。

  見覚えのある顔があくびをしていた。

  「ふぁ、また来た。どうも」

  レジで頭を下げた彼女は中学時代の部活の先輩である。ここは、そのときの校区内であるため、私以外の奴らとも顔を合わせることが多いだろう。軽く会釈をすませて冷蔵コーナーからファンタグレープをとりだした。

  「ん、支払いは」 

  「edyで、ついでにチャージもお願いします」

  「そいや、さっきに連れてた女の子はなんなん」 

   「姪の椎菜ちゃん」

   「へえ、絶対手え出すなよ」

  「自分、もうロリコンちゃいますよ」

   「知らんけどさ。ありがとうございましたー」


  店を出ると空一面を脳が覆っていた。

  雨が降る気配と察知した年配の男性がささやかな駆け足になっている。それほど曇天と見紛うような光景だが明らかに姪の脳である。これは良くないかもしれないことはないかもしれぬがさりとて不明な点を究明せねば姉に申し訳がたたぬやもしれず、不本意ながら急ぎ足で公園に戻った。

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