その1(6)

 その日を境に、カミルとレイナスの旅の目的が変わった。

 次の村に辿り着くと、レイナスは村人に魔物が現れることはないかと尋ねた。すると、その村は霧が出やすい村で、霧の日には必ず行方不明者が出るのだという話を聞くことができた。人々の間では、魔物の仕業に違いないと噂されているらしい。二人は村に滞在し、霧が出るのを待つ事にした。

 村に来て四日目の早朝、ついに霧が出た。カミルとレイナスは村の中を歩き始めた。レイナスは剣を携えている。あの大男が持っていて、サラディンが首をはねるのに使った剣だ。カミルは正直良い気分がしなかったが、魔物を倒すには首をはねるしか方法がないのだから、魔物退治の必需品であり、仕方のない事だった。

 しばらくは静かで、何の変化もなかった。二人が村の中を行ったり来たりしていると、微かに女の歌声が聞こえてきた。

 すると、レイナスがカミルに「耳をふさいで」と言った。レイナスがそう言うのだから、聞くときっと良くないことが起こるのだろう。カミルは、言われた通り両手で自分の耳をふさいだ。一方、レイナスは耳をふさぐことなく、そのまま進んで行く。

 霧で少し先も見えづらい状況だったが、二人は前へ進んで行った。やがて二人の前にぼんやりと人影が現れた。近づいて行くと、それが女だと分かった。耳をふさいでいるから声は良く聞こえないが、口が動いているから、歌の主はおそらくこの女なのだろう。

 女は、二人が近づくと歌うのを止め、怪訝そうな目つきで二人を見つめた。女の口の動きが止まったのを確認したカミルは、耳から手を離した。

「おまえたちは何者?」

 女が二人に尋ねた。よく見ると、女の手にはロープが握られている。霧の日に村人を襲っていたのはこの女なのだろう。

「おまえが村人をさらっていたのか?」

 レイナスが尋ねると、女は警戒心を露わにした。

「おまえたちは何なんだ?」

 女は苛立ちを隠せない様子で、手にしていたロープを投げて来た。ロープはまるで生き物のように伸びて、レイナスを捕えようとする。

 しかし、レイナスが呪文を唱えると、そのロープが一瞬で細切れになった。女はそれを見ると恐怖に顔を引きつらせ、二人に背を向けて逃げ出そうとした。

 レイナスが再び呪文を唱えた。すると、霧の水蒸気が集まって氷柱のような塊となり、それが女の背中に突き刺さった。

 女は、「ギャ!」と悲鳴を上げてその場に倒れた。レイナスは、女に近づくと、鞘から剣を引き抜き、その首に振り下ろした。カミルは思わず目を背けた。

 レイナスは剣をしまうと、「行こう」とカミルを促し、足早にその場を去った。

 この女の魔物を皮切りに、カミルとレイナスは、魔物が現れるという場所を訪れては、退治するようになった。魔物を殺す時の凄惨さにカミルは毎回目を背け、とても慣れそうにないと思った。

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