第4話「青景ソラハ」

―わたしはいつも君を見ていた。―




クラスのみんなは、つまらない。


群れて馴れ合って。みんな同じようなことしかいわないし。


「スミカさん、美人だね」っていわれても。


わたし、自分の顔好きじゃないし。


流行りのものとか、興味ない。「みんなと仲良く」も好きじゃない。


あと。待島、の名字の読み方を、イチイチ説明しなきゃいけないのもめんどくさい。


まつしま、じゃないし。さむらいじま、とか何よそれ。


わたしはまてしま。マテシマスミカ。


休み時間は、読書。それか、机に突っ伏して、おやすみなさい。


人とかかわりたくないの。ほうっておいて欲しい。


みんなが帰ると、わたしは学校の窓を開ける。多分落下防止の為なんだろうけど、座り心地よくつきだしている場所があって、そこがわたしの定位置。

日向ぼっこのね。青い空を見ながら、陽の光を浴びる。

誰にも教えない。わたしの特等席。


四月。わたしは日課の日向ぼっこを終え、窓を開けて教室に戻ろうとする。

ガラガラガラっと窓を揚げた瞬間。


「げ」


人がいる。居残り生徒かな?

絶対に、みんな帰ってると思ったんだけど。

「自殺だー!」とか騒がれると、超めんどくさい。正直、困る。特等席剥奪は勘弁。


何してるんだろ。


読書だ。読書してるとしか言い様がないほどに読書してる。


窓を開けた音、聞こえなかったのかな………兎に角、その集中力には感嘆するしかない。


読んでるのなんだろ。

………あ。『Dr.ブラッドマネー』だ。


そこはもう少し、オーソドックス文学少女って感じのところのベタなのをチョイスして欲しかった。メタ的に。

ま、わたしも好きなんだけどさ。


わたしは静かに窓を閉めて、彼女を観察した。

スラリとした手足。黒渕の、お洒落なメガネを掛けている。

髪の毛は天パのセミロング。でもキツい感じじゃない。ボディパーマっぽい、お洒落な感じ。

正直、結構美人だと思う。少し、見蕩れてしまった。

彼女は姿勢よく背筋を伸ばし、熱心に本を読んでいる。

まだこちらには気付いていないようだ。


彼女の名前、なんだったっけ………そうだ。

ソラハさん。語呂がいいから、下の名前は覚えている。


名字。名字はなんだっけ。君の名は!

いや、名前は知っているんだけど!


そんなことを考えていたら、目があった。


彼女は驚いたように目を丸くしている。


そして、一人呟くように


………「まてしま………すみかさん?」


う、この子凄い。わたしの名前、間違えずにフルネームで覚えてた。


「そういうあなたは、ソラハさん、だよね」


わたしは、動揺を悟られないように、自分にできる精一杯クールな声で告げる。


「うん、私、青景ソラハ。待島さん、覚えててくれたんだ」


彼女――ソラハさんは、はにかみながら笑ってくれた。反則級の可愛さ。一発レッドカードでしょこれ。


「じゃ、ソラハさん、わたし帰るから」

「うん、待島さん、また明日」


そっけないようで、なんだか、明日を期待されてるやり取りだった。



次の日も、わたしが日向ぼっこを終えると、ソラハさんはいた。

相変わらず読書。今日はコンタクトなのかな。メガネをかけていない。


どれどれ、読んでいるのは………『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』、か。


確かにベタでオーソドックスではあるけれど………。


「こんにちは、待島さん」


今日も、彼女の方から話し掛けてきた。


「こんにちは、ソラハさん」、わたしは微笑んで返す。何故自然と笑みが出たのか、わたしはその時はその意味にまだ気付かない。


「今日も読書?」

「うん」

「「また、明日ね」」


声がハモる。


いつしか、待ち合わせ確認にそれがなって。


放課後、軽く挨拶を交わすのが習慣になって。


わたしは、ソラハさんのことが凄く気になるようになってて。


だけど。いつの間にか彼女は、放課後の読書をやめた。


わたしは相変わらず日向ぼっこの毎日。


六月のある日。日向ぼっこを終えて教室に入ると。


ある。置きっぱなしのカバンが。ソラハさんの席に。

結構ドジなのかな………って、そんな場合じゃないってば! 届けてあげないと! 走れば間に合う! きっと!


これはきっと、運命のくれたチャンスなのです。


わたしはカバンを、机の上からひったくって全力で駆け出す。


廊下なんか走れ走れ! 今は非常事態!


階段をかけおりて、下駄箱で急いで靴を履き替える。


そしてそのまま、人気のない校庭を突っ切ろうとして………途中で息が切れてしまう。


もう帰っちゃったのかな………そう思って、前を見ると。


ソラハさんがいた。間違いない、あのシルエットはソラハさんだ。


校庭に植えてある木の横を、スラッとしたシルエットが、カバンも持たずに歩いている。

片手には文庫本があった。本に夢中でカバンを忘れたんだ。ドジだなあ。


わたしは急いで追い掛けてきたことがバレないように、息を整える。


よし、もう大丈夫です。


わたしは、自分に出来る精一杯優雅な佇まいで彼女に近付く。


わたしは。彼女の後ろから。堂々と。


涼しげに、そして颯爽と。


ソラハさんに声をかけるのです。



「ソラハさん、忘れ物だよ」

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