第2話「あなたの手に触れて」
きっかけはそんな感じで。
私と彼女………待島さんはなりゆきで一緒に下校した。
「そういえば………なんで待島さんは私の名前を知ってたの?」
そう! 当然の疑問 聞きたい! 聞きたいってば、聞きたい!
不適にニヤリ、待島さん。
「スミカでいいってば。あなた、有名人じゃない」
驚いてしまう。私が目立つ、なんてことはない。容姿も普通だし、特技があるわけでも、クラスの人気者なわけでもないのだけども。
「わたしのなかでは、ね」
いたずらっぽくつけたす、待島………スミカさん。
思わずドキッとしてしまう、ええい、何ときめいてるんだ、私は!
「わたしもあなたも、少し似てる。群れのなかに、属さない。個を大切にしてる。」
そう、スミカさんは、いった。
「それより!」
「雨が降ってきた! 雨宿り!」
私の手を握って、待島さんは走り出した。
いつしか確かに曇り雨。頬に滴る水しぶき。
うーん、こういう展開なら、忘れるのはカバンじゃなくて傘のような………
そう思いながら私は。カバンのなかに折り畳み傘があることは黙っていた。
なしくずしに。私は待島さんのウチにお邪魔してしまった。
「お邪魔しまーす」
私の声を待島さんは遮る。
「大丈夫。わたし以外誰もいないから」
「え? 家族とかは………」
「わたしだけの、秘密基地。一人の部屋。完結した世界なの。」
追求を許さない。待島さんのきっぱりした声。
「はい、タオル。いま、お湯湧かして来るから。珈琲と紅茶、どっちがいい?」
「あ、珈琲………砂糖多め。」
「ミルクは」
「いる」
私がそういったのを聞き届けて、彼女は奥に消える。
「左の部屋、使っていいよ」と言い残して。
扉を開けると。質素な部屋だった。
テレビもない。テーブル一つ。座布団は何故か二つ用意されている。
本が何冊か散らばってる。ルソーとかロックとかモンテスキューとか、そういうの。
手に取って眺めてたら、スミカさんが戻ってきた。
「あ、ゴメン、勝手に読んじゃってて……」
「いいよ、気にしなくて。マンガの方が良かった?」
待………スミカさんはウインクをして、マグカップを二つ置いた。
「はい、珈琲。砂糖は二つで良かった?」
「うん」、とわたし。
「珈琲、わたし苦いからあんまり。お揃いにできなくてゴメンね?」
そういってスミカさんは自分のマグカップの紅茶を砂糖で埋めていく。
シュガースティック、五本は使ってた。
「甘いものは身体があったまるよ?」ってスミカさん、それ入れすぎだと思う。
スミカさんの淹れてくれた珈琲はとても美味しかった。
雨は、まだ止む気配がない。
「傘刺しただけだと、ずぶ濡れになっちゃうね、きっと。傘、余ってることは余ってるんだけど」
「ねえ、泊まっていかない?」
と、スミカさん。
え、それは、いきなり、会って。そんなのは少し、ふしだらでは………って私が何考えてるんだ!
深呼吸。すーすーはー。すーすーはーはー。
「あ、でも、親に聞かないと………」
「家の電話は?」
「×××-×××-××××です」
素直に教えてる私………
「もしもし、青景さんのお宅ですか。わたし、青景さんのクラスメイトの待島スミカといいます。はい、これこれこういうことで、今、わたしの家に雨宿りをしていただいてます。風邪を引いては大変ですから。少し雨も酷いですし、このままウチに泊まっては如何かと。大丈夫です、予備に教科書はスペアがあります。全教科です。あ、はい。本人に代わります」
「あ、お母さん、私だけど………」
「待島さんにあまり御迷惑かけちゃ駄目よ。ちゃんとお礼いうのよ。」
「うん………」
そういって、電話は切れた。
待島さんを見たら、ウインクしてる。
どんな魔法を使ったのか。普通、親の説得ってもっと手こずるもののような。
こうして私は、待島さんのおうちに、泊まることになりました。
私の鼓動は早鐘を打ち、私の顔は赤く火照るのでした。
雨に濡れたからです。きっと。そんな私の言い訳は、何処の誰が信じるのかというほど、説得力に薄いものでした。
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