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「ねえ波瑠、どうしたの? なにかいいことでもあった?」
モニタを見つめる顔がニヤついていたらしく、早速弥生さんに嗅ぎつけられた。自分としてはポーカーフェイス、至って真面目に仕事をしているつもりだったのに。
「別に? 何も無いけど?」
「なんにも無いようには見えないけどなぁ? 金曜日はすごく調子悪そうだったのに、今日は別人みたいよ? ねえ、晶ちゃん」
「そうですよー。今日の波瑠さん、なんだかキレイです」
すっぴん前髪ちょんまげ穴あきジャージのどこがキレイなのか教えて欲しい。
「晶ちゃん、大丈夫? 眼科行った方がいいんじゃない?」
「ほら、今日の波瑠さん、やっぱり何か違う」
モニタの前から強制的に引き剥がされ両側から挟まれ腕を取られ、ソファに押さえ込まれた。
「さあ、白状しなさい。休みの間に何があったの?」
「ねえ、ふたりとも。そういうのどうでもいいから仕事しようよ」
「どうでもよくないですよ。気になって仕事できません」
晶ちゃんの真剣な眼差しから逃れたくて弥生さんを見ると、意地悪な目をして面白そうにニヤッと笑った。駄目だ。観念して正直にすべて話すまで、解放してはくれないらしい。
「もしかして、山内さん? この間、食事に行ってたよね? 何か進展あったんだ?」
「えっ? 山内さんなんですか?」
晶ちゃんの表情がみるみる青くなっていく。私は大慌てで弥生さんの言葉を否定した。
「晶ちゃん違う! 山内さんじゃないから!」
「じゃあ、やっぱり浅野さんですか?」
「決まってるでしょう? 俊輔君の他に誰がいるのよ? さあ、何があったのかちゃんと私たちに話しなさい」
ふたりの誘導尋問に引っかかってしまったようだ。
「そうですよ。話せば楽になりますよ?」
「いや、別に楽にはならないと思うけど?」
「そういうのもういいから、早く吐いちゃいなさいって」
「そうです、無駄な抵抗はやめましょう」
「それとも……私たちに言えないようなことしちゃったとか?」
「えー?」
何を想像しているのか晶ちゃんの顔がみるみる赤く染まる。青くなったり赤くなったり、まったく忙しい子だ。
「言えないようなことなんてなんにもしてないから!」
「だったら、早く吐いちゃえ」
「あ、ちょっと待って! 携帯鳴ってる」
良いタイミングだ。きっと浅野さんですよ、ラブラブだねと嬉しそうなふたりの声を背に受けながら、バッグから携帯を取り出し画面を見ると、メール着信のお知らせが。
「…………ナニコレ?」
「波瑠?」
「どうかしたんですか?」
両側からふたりが、私の手に握られている携帯を覗き込んだ。
「……どちら様?」
「……さあ?」
「でもこれ、波瑠さん宛てで間違いないですよね?」
--波瑠さん、如何お過ごしですか。女性とのお付き合いにおいては頻繁に連絡を取り合い相互理解を深めるべきであると、母より進言を受けました。しかし電話でお話しする時間がありませんので、今後はメールにて頻繁に連絡を取ることにします。僕は多忙で返事は遅くなりますが、波瑠さんも遠慮なくメールをしてください。
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