第6話忘れ物

 朝のラッシュ時。セイラは改札口のラッチに改札鋏を持って立っていた。カチカチ音を鳴らす昔ながらのものだ。今はローカル線でもスタンパーが多い。セイラは客からスマホの忘れ物を預かった。

「どこにありましたか?」

 セイラは見つけた場所を訊ねる。

「ホームの上に落ちていました」

「わかりました。落とし主からのお礼とかは要りますか?」

「いいえ」

「わかりました。忘れ物として保管しますね。ありがとうございます」

 セイラは拾ってくれた客に礼を言ってラッチを閉めて事務室に戻る。遺失物切符に必要事項を記入しているとスマホが鳴った。

「はい」

「あー、よかった。電話に出てくれて…」

 落とし主からの電話だった。セイラはスマホが駅に届けられている事を伝え、持ち主の連絡先と氏名、引き取り予定日時を聞き出す。

「引き取りの際に身分証明をできるものを持って来てください」

 セイラは電話でのやりとりを終えると引き取り予定日時を記入して保管箱に収めた。


 セイラとつぐみはいつもの居酒屋で、仕事の話に花を咲かせていた。

「忘れ物って結構メンドイよね…」

 つぐみはいつもの様に愚痴をこぼす。

「まあ、そうよね…」

 セイラが同意するとつぐみは愚痴をぶちかます。

「それでさ、この間…」

 つぐみは携帯の電源ついて話す。つぐみの会社では、預かった携帯はどんな料金プランなのか不明な為、すかさず電源を切ってしまう様だった。それについて、位置情報が使えないと客から意見を頂戴したらしい。

「まあ、どちらの言い分もわかるけどね…」

 セイラはサワーを飲み干す。

「そういえば、この間、カバンの忘れ主からお礼のケーキもらっちゃった。あれはおいしかったなぁ」

「えー、いいなあ」

 つぐみはセイラを羨む。


「つぐみの会社は結構忘れ物の取り扱いって多いの?」

「うん。かなり多い。問い合わせも多いけどね」

「ふーん」

「セイラのトコは少ないの?」

「あんまりないかな。列車の中だとちょっと面倒かな」

「それはわかる。途中の駅に捜索依頼しないといけないし」

「それもあるけど、旅客関係は無人駅扱いだから司令経由になっちゃうんだよねー」

 運転指令が車掌に業務用携帯電話に連絡する方法になっている。

「ふーん。うちは遺失物で列車無線は使えないよ」

「そうよね。車掌さん大変だもんね」

 セイラは苦笑いをする。セイラの会社では、車掌が持って来るからだ。他の会社は客がその駅まで取りに行く。


 期日までに引き取られなかった遺失物は警察送付となるが、事務負担は並大抵の事ではない。ちなみに警察でも引き取られなかった場合は、鉄道会社に戻され、競売にかけるか、廃棄処分される。


 連絡できるものは連絡するが、関係ない第3者には個人情報保護の観点から連絡しない(連絡しようがない)し、報告や連絡する事もない。くれぐれも詐欺にあって騙されない様に‼セイラとつぐみからのお知らせでした。


                                 つづく

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