第5話自動改札の怪

 つぐみは券売機前で定期券のお客に案内をしていた。改札のオープンカウンターには先輩駅員が2人立っていた。


 ピンポン。ピンポン。


 自動改札機のアラームが鳴る。


 それからまもなく1人の客がオープンカウンターに現れた。

「タッチしても通らないじゃないかっ‼」

 客がそう叫ぶと事もあろうかパスケースを2人の先輩駅員に投げつけた。


「うおっ、あぶねぇ」

 2人は咄嗟によける。

「よけんな。通らねえって言ってるだろう‼」

「お調べしますから、お待ちください」

 怒鳴る客をなだめつつカード情報を端末にかけて確認する。すると、しっかり入場記録が入っている。

「すでに、入場になっていますから、このままお通りください」

「じゃあ!なんで通らないんだよ‼理由を言え‼」

 客は激高する。

「きちんとタッチしていただけていないんじゃないんですか?」

「なんだとお前!客のせいにするのか!本社に苦情入れてやる。なんと言うんだ⁉」

「そこまで言うならカメラで確認します。名刺をご用意ください‼」

 そう言うと先輩駅員Aは端末の脇にあるパソコンで防犯カメラの画像を確認する。この客がタッチした自動改札の通路は把握済みだ。


 結果。


 客の負けであった。


 1回目。早すぎるタッチ。無札と判断されて扉が閉まる。

 2回目。センサーが反応してアラームが鳴っているにも関わらずにタッチし続ける。この時タッチしつつセンサー外に客の身体が出たのでタッチ部が反応。入場情報が書き込まれる。

 3回目。すでに入場情報が書き込まれているのに、別の自動改札機で再びタッチしたのでエラーとなる。

 が、原因だった。



「くっ!この!」

 旗色が悪くなった客は拳を振り上げようとしたが、警察官に掴まれた。


「後は交番で聞こう」

 客は警察官に連行された。


「他のお客様から通報があったみたいですよ」

 つぐみは券売機での案内を終えてカウンターに戻っていた。

「そうかい。それは助かった」

 先輩駅員Aは冷静な反応で応じた。


 自分勝手なタッチはやめましょう。タッチはしっかりと。反応させてから前に進みましょう。



「へえ~。自分が悪いのに、そんな人がいるんだぁ」

 つぐみから話を聞かされたセイラは意外に思った。

「今でも結構多いよ。先輩の話だと導入当初はタッチ失敗のお客さんで行列できてたって」

「ふーん。そういう話は参考になるわー」

 セイラはそう言うと串焼きを頬張った。                             

                               つづく

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