第2話つぐみの改札
ここはなじみの居酒屋。桟敷席でセイラとつぐみが酒を飲み交わしていた。
「ねえ、セイラ。仕事慣れて来た?」
「んー。ボチボチねぇ。つぐみは?」
「改札ってやる事が多くて大変だよ~」
「まあ、そうよねぇ。改札ってつぶしの効く職場だから」
つぶしの効く職場。つまり誰でも務まる職場という意味だが、逆に言うと誰でも務まらないといけない職場でもあるのだ。そして新人が配属されるにはうってつけの職場だ。
セイラにそう言われてつぐみは仕事について振り返ってみた。
改札は駅の顔とも言える職場で、ある意味出札よりも忙しい。なぜなら対応しなければならないお客の数が段違いだからだ。
特に現代の様な電子マネーをICカードと融合させた交通系ICカードはその手軽さと便利さがウケて爆発的に利用者に受け入れられた。
しかし、便利の裏は非常に複雑でかつ不便なのである。
「自動改札通らないんだけど」(怒)
「入場記録がありませんよ?」
「カード戻って来ちゃうんだけど?」
「他の駅の改札、入ったままになっていますけど?」
「チャージと精算をお願いします」
「おいくらチャージしますか?」
改札の仕事はそういったお客の相手が大きなウェイトを占めている。
その次は道案内。
「ATM近くにありますか?」
「バス乗り場を教えておくれ」
この次はようやく鉄道らしい質問。
「トイレどこですか?」
「こんどの電車、どこそれに停まる?」
「ここまで行きたいんだけど?」
毎回その繰り返しだ。しゃべり過ぎて?こめかみが痛くなり、だんだんお客の顔が同じ顔に見えて来る程だ。だが「またかよ」なんて顔をしたら速攻で苦情モノである。
そして人の集まる所には、トラブルはつきものである。
「なんだ‼お前!ヤんのか?」
「なんだテメ―は⁉」
「ハイハイ。離れて離れて」
朝から夜からケンカ。
「キャー!この人痴漢よ‼」
「オメーのケツなんか触ってねーよ‼」
「ハイハイ。警察が話聞きますから」
朝のラッシュは痴漢も多い。夜の場合は相手が酔っぱらっている事もある。
それからたまに迷子もいる。割とこちらは解決するペースは早いのが助かる。
次に急病人だ。車椅子で収容して連れて行く事が多いが、担架での搬送は結構大変だ。体格によってはヘトヘトになる。救急車要請をするのも慣れてしまった。
身体の不自由なお客様の対応や忘れ物の対応もある。
最後に苦情。これは本当に参る。
状況や内容によっては主任や助役に御出馬してもらう必要があるからだ。まあ、自分で対処した場合でも報告は必須だ。
覚える内容も半端ないが、基本的な事なので覚えない訳にはいかない。例えば各駅との運賃はしっかり頭に入れなければならない。切符とICカードの金額が異なるので大変だ。しかも精算となると、精算の前提条件も対象となる乗車券類で異なるのでやっかいだ。
お客に質問されたら正確に分かり易く答えなければならない。知らなければ確認して回答する。間違った案内をすれば苦情になりかねない。
そんな事を思い出したらつぐみは頭が痛くなって目を回す。
「あらあら。もう酔っぱらったの?」
つぐみはセイラにからかわれる。
「ち、違うわよっ!仕事の事を思い出したら頭の中がグルグル回っただけよっ!」
「ハイハイ。そういう事にしておこう」
「も~」
「クスクス」
つぐみはセイラに笑われてほっぺたをふくらます。
「改札の忙しさを思い出したら、またクラクラして来たわ」
つぐみは右手でおでこをおさえる。だが、忙しさで目が回るのは本当だ。
居酒屋を出て2人は帰宅する。
「あ~あ。また明日も仕事かあ」
「ずいぶん仕事が恋しいみたいね」
「そんな事全然ないッ‼」
つぐみは全力否定する。セイラは爆笑して2人は別れた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます