紅葉を少々

 三度目のデートは前回からしばらく開いてしまった。お互いに仕事が繁忙期だったのだ。クリスマスが年末に早着替えしたばかりの街はどこもにぎやかだ。ゆっくり過ごしたくて、紅葉を見に行こうと話していた庭園にあえて足を運んでみた。

 メールでのやり取りはあったけれど、直接会えるのはやはり嬉しい。雪吊りが施された立派な松や、大きな石灯籠を眺めながら、会えなかった間の話は尽きない。しかし、さすがに寒くて、園内を一周したあたりで場所を移すことに決めた。

 門を出るとき、彼女は楓の木の下で立ち止まった。

「来年は紅葉も見に来たいですね」

「ええ! 絶対に!」

 来年の約束に心が躍る。僕が何度もうなずくと彼女も楽しそうに笑った。

 わずかに葉が残る楓を見上げていると、お見合いの席で魔法の話題になったとき、彼女が「紅葉も少々」と話していたのを思い出す。

「あなたの紅葉はどんな色に?」

 そう尋ねると、彼女は地面に落ちていた楓の葉を拾う。枯れてくしゃくしゃになっていた葉は、僕の目の前でどんどん時間を巻き戻す。暗褐色から段々と鮮やかな朱色へ。

 そこで強い風が吹き抜けた。

「あっ!」

 彼女の紅葉は風が巻き上げて行ってしまった。僕は、残念そうに見送る彼女の手を握る。

「また来年見せてください」

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