第104話 マルーシャの憂鬱2

マルーシャは、憂鬱になるほど、何か他の

ことに打ち込んだ。

 

最初はピアノだった、友達と一緒にやるゲーム、

バンドの音楽活動、そしてその延長のジムでの

トレーニング。

 

とくに、限界まで体を追い込んで、呼吸が気を

失いそうなレベルまで達したあと、すべてが

すっきりする感触がした。

 

父は家で経営を見ることも多かった。かなり

小さなうちから、父のリモート会議に参加していた。

参加というよりは、その場にいた、といったほうが

いいかもしれないが。

 

しかし、そうやって経営の空気を学んでいく。

 

特につらかったのが、軍事企業が集まって行われる

会合だった。

 

産業団体連合会と呼ばれるその会合で、マフノ家は

何代か前から会長を務めている。太陽系内のすべて

の軍事企業はもちろん、一般企業の軍事部門から

も人が集まる。

 

というと膨大な人数になるため、下位団体が地域ごと

に組織されていて、そこから代表が来るのである。

それでも数千人規模になるのだが。

 

会合では、父はとても冷たい人間になる。その理由も

徐々にわかってきた。ああいう場でトップを保ち

続けるためには、まずトップであるとのイメージを

まわりに植え付けなければならない。

 

マルーシャの思い込みなのかもしれないが、とても

特殊な人間が集まるのである。会合で会って

いろいろと話し込むうちに、様々な特殊な趣味が

顔をのぞかせるのである。

 

そういうのに立ち向かうためには、非情の人間に

なりきるしかない。父は、それ用の化粧までして、

髪型を決めて、会合に臨む。そして、夕食では、

血の滴るほとんど焼けていないステーキを、

旨そうに食す。

 

そんな父を見ているうちに、マルーシャのほうも

少し楽しくなってきた。ハロウィンパーティに

参加していると思えば良いのである。

 

マルーシャも、冷酷そうに見える化粧をして、ドレス

を着て、血の滴るステーキを食べる演技を見て、

思わず吹き出してしまうのであるが、これが周りから

見ると、血も凍る景色となる。いつしか氷の

美少女とまで呼ばれるようになった。

 

今では、母とも相談しながら、様々な演出を

考える。特に、会合が第3エリアの都市マヌカ

で開催されるときは、地元ということもあって、

シェフやその他スタッフも巻き込める。

 

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