第103話 マルーシャの憂鬱

彼女が憂鬱となる原因は何であろうか。

 

マルーシャ・マフノは、比較的裕福な家庭に

生まれた。この際、比較的、という言葉は

あまりふさわしくないかもしれない。

 

不動産や有価証券などの資産を多く抱えながら、

マルーシャの父は会社も経営していた。

月のラグランジュ点第3エリアにおける、

最も規模の大きい軍事企業である。

 

マルーシャの父、ステパーン・マフノは、

普通の人間である。この場合の普通というのは、

会社の業績に対してそれほど熱心でもなかった

し、兵器が好きでもなかったし、お金に

執心しているわけでもないという意味だ。

 

しかし、それが却って経営にプラスになって

いるのか、業績自体は非常によい。元々、

第3エリア自体に兵器に詳しい人間も

多く集まっていること、

 

業績にうるさくないことが、のんびりした

落ち着いた社風を作り、それが多様な人材を

集める結果となっていること。

 

民間人視点が入ることで、多種の兵器が

考案されつつも、うまく取捨選択がなされ、

それが実際の市場で、主に戦場であるが、

成功を収めていた。

 

マルーシャは、そういったことを、小さいころ

から理解し、学んでいた。父も、とくに隠す

ところなく、事実と現実を学ばせた。

 

それと同時に、小さいころから、やりたい

習い事はなんでもやらせた。それは、父

自身が小さいころからやってきたことでも

あった。

 

それもあって、バンドで音楽活動をやる、

という話になったときも、特に反対はされ

なかった。

 

父ステパーン・マフノが経営するマフノ重工は、

その名の通り、世襲制でマフノ家が常に経営

を握っている。

 

そして、マフノ家には、代々受け継がれている

記録がある。マフノ家の歴史、と言っても

よいだろうか。

 

その歴史を初めて読んだとき、マルーシャは

マフノ家に生まれたことを後悔したものだ。

それから父とそのことについて話したり、

父の家業に対する姿勢を知るうちに、その

後悔は次第に薄れていった。

 

その歴史とは、如何に世の中に、戦争を

増やしていくか、その手法と実践の記録だった。

それは、歴史書などでその実態を明らかに

されたものもあれば、そうでないものもある。

 

民衆をいかに操作して戦争に向かわせるかの

記録だった。

 

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