第105話 マルーシャの憂鬱3

マルーシャの父、ステパーン・マフノは、

自身の会社の仕事中も冷たくはあるが、

それは態度だけである。

 

社内も社長以下はみなのびのびやっている。

 

家の中では、ふつうの人だ。ペットと

のんびりしたり、プロの球技の試合を

眺めたり。休みの日はよく釣りにいく。

会社以外の人間関係がある。

 

父は言う。

自分は今の立場に合っていない。ただ、

非人間的な者が、技術や権力を握ったときの

ことを考えると、自分がやっていたほうが

よいのでは、と。

 

産業団体連合会の会合でも、基本は外に

対する印象を大事にするように決定していく。

一見冷たいような決定も、最終的によい

方向へいくようにする。

 

それを、冷たい人間というイメージをたもち

つつ行う。なので時には犠牲も伴う。

 

そういった立場を、悪意の人間が手に入れれば、

おそらく様々なことが可能だ。それは、過去の

悲しい歴史たちが証明している。

 

そんなこともあって、マルーシャは、自分

もふつうの人間の感覚をしっかり身につけた

うえで、そのような立場を継いだほうが

よいかもしれない、そう思うようになってきた。

 

もう少し時が経てば、彼女のまわりの同年代たち

とも、彼女の境遇について相談できるように

なるはずだ。

 

実際、同年代ではないが、コンサルタントの

ナミカ・キムラとはかなりのことが話せるように

なっていた。父も経営の相談をしている。

 

父は言う。

軍事企業は、本来は営利企業として経営しては

いけないのかもしれないと。もう少し人類が

賢くなって、仕組み自体を見直せればいい、と。

 

第3エリアの軍事企業に関しては、情報開示は

かなり綿密に行われている。父もそれに対して

積極的だ。

 

それが為されなかった場合、歴史が示すように、

企業の利益のかなりの部分が、戦争を誘導

するための工作に使われる。

 

そのやり方は、まずターゲットとなる国の

メディアを押えるのだ。公共放送がある

ことが望ましい。

 

おそろしい話だ、とマルーシャは思う。

しかし、友がいる限り、自分は間違った道を

選ぶことはないとも思う。

 

おそらく今後、遠くない将来に、結婚相手を

見つけ、経営にも深く関わっていくだろうが、

今のメンバーで活動も続けていきたい、

そう思うマルーシャだった。

 

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