第58話 ヘンリクの話19

「コウエンジ連邦はオタクの集まりで、

経済オタクもいっぱいいるから色々試したい、

ってことじゃないですかね」

僕もタリアさんの前で少しいいとこ見せたい。


「宇宙世紀開始の昔から、アメーバ経済

という考え方はあったわ」

「より狭い地域で経済を成り立たせよう、

そして、外部環境の変化にも強くしよう」


「ふつうはこう、生産設備なんかも集中

させて効率化して強くするよなあ」

キングさんが呟く。


「そうね、でも、そうすると、政治や

経済含めた環境変化による一点障害に

弱くなる」


「それにね、これは極端な話、遠い未来に

実現するのかどうかわからないけど、

生産効率が極端に上がって、自分に必要な

ことがほどんど簡単に自分で出来るように

なってしまったとき」


「ひとは果たしてそれを他人に任せるかしら」


なるほど、遠い未来にはそういうことも可能

になってくるのか。


「最近の技術革新も関わってくるかしら。

太陽系外縁から来たっていう、素粒子論を

応用したやつ、ヘンリク君のほうが詳しいかも」


来たよ来たよ。

「あ、僕それ知ってますよ、各素粒子の相互

作用を利用して物質の分離や原子レベル

での再構築を行うシステムに応用する話

ですよね。システムが実用に入ってさらに

小型化されれば生産効率がまた各段に

向上するし、今後原子核の操作にも応用

できるとか聞いています、ごほっ」


最後むせてしまったが、ヘンリクが早口で

まくしたてる。


タリアさんが続ける。

「もともとモノを作る段階で原子レベルの

操作という技術はかなり進んで来てたよね、

でも、今回の技術進化は、いらなくなった

モノを分離して再利用するのに強力な

ツールになりそうなのよ」


自分の領域に話を持ち込めそうなので、

ヘンリクも興奮してきたが、どうしても

トイレに行きたい。


戻ってくると、タリアさんとアミが別の

テーブルに移り、代わりにエマドと

マッハパンチのクインさんが座っていた。

ヘンリクは若干がっかりしている。


「おう、ヘンリク、クインさんがいい話

してくれるって」


なんだろう、少し興味が沸きつつも、

ちょっとだけ嫌な予感もする。

実家がブッディストのお寺だという

クインさんがする話といえば、いつもあれ

の話なんだよなあ。


あれが苦手なヘンリクは食わず嫌いな

形でクインの話を聞くのを今まで

避けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る