第19話 テルオの話4

テルオが少年期を過ごした第2エリアの話に移る。


第2エリアの国の正式名称があるが、ここでは

それを使わず、神聖バニラ帝国という名で呼ぼう。


これは、テルオが考えた蔑称である。もちろん

人前でこの名前を口にしたことはない。

平凡な、とか退屈な、とかいう意味である。


月のラグランジュポイントとしては2番目に

進出が開始された第2エリアで作られたこの国は、

建国当時は希望に満ち溢れたものだった。


宇宙世紀開始直前、自由と民主主義を謳うある

大国が、経済崩壊と内乱により解体された。

宇宙世紀開始後、自由と民主主義の復活として、

多くの人々に受け入れられ、実際に多くの

ひとが移民した。


それ以外のエリアが、比較的中規模、または

小規模の経済圏で自給自足をできることを

模索しているのと対照に、この神聖バニラ

帝国は、集中大量生産で経済を効率化

する方向を目ざしていた。


それは政治も同じで、地方分権よりも

中央集中、むしろ、太陽系の国々は自由と

民主主義の名の元に統一されるべき、という

理念を掲げていた。


それはいい。


あらゆるかたちをまず試してみることは、

テルオも悪いことではないと思っていた。


生まれてから4歳まで第三エリアに住んでいた

ことも影響したのかもしれない、バ国の

分化は、何かこう、突き抜けたものがない、

テルオはいつしかそう感じるようになっていた。


それは、テルオたちがちょうど移転したころを

ピークに、どんどん悪化しているように見えた。


人々は、一見希望に満ち溢れているように

見えるが、けしてある壁を越えない、箱の外に

出ない。


自分の意識が高すぎるのだろうか?


この国は、建国当初から民族のるつぼであった。

しかし、ここ最近、この民族はこうである、

という枠がそれぞれ当てはめられ、そこから

出ることができない。


学校のクラスでもそうである。


もちろん、全員同じ顔をして同じ服を着ている

わけではない。しかし、クラスには必ず

こういうキャラがいて、毎日こういうことを

言って、卒業していく、何か強力な予定調和を

感じた。


とくにいじめられたわけでもない、差別された

わけでもないが、強烈な何かで、がんじがらめ

の毎日だったと後で思った。

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