第17話 テルオの話2

テルオは時々親の仕事を手伝った。

といっても、経営のほうではなく、現場で警備員と

してである。たまに上層階での仕事もある。


この都市は、上層階にいくほど人口密度が上がり、

最上階に近づくとまた人口密度が少し下がる。

最上階は上面から光を取りいれたリゾート地がある。


北面と南面の中央には階層ごとをつなぐ交通機関が

あった。上の階層ほど、そして階層間交通が近い

ほど、雑多な街並みとなり、離れるほど閑散と

してくる。


各階層内でもそれぞれ異なる交通機関があり、

地下鉄道が縦横に張り巡らされた階層もあるが、

テルオが住む最下層は、鉄道といっても

単線一両編成のもっとも単純なものであり、

かつ駅からも少し距離があった。


この都市には四季がある。夏は暑く冬は雪も降る。

しかし、一般の構造都市では快適な一定温度、

湿度で一年中設定してあることが多かった。



テルオは雨の日は家で歴史や哲学を学んだ。

その際基本的にはネットワーク端末を使用するが、

特に気に入っているものについては、木の繊維を

薄く成形したものに文字を印刷したものを

数個持っていた。


それは、宇宙世紀前からある哲学が当時の原文で

書かれたもので、テルオはなるべくそれが生まれた

ままの姿で読みたかった。


この時代、量子コンピュータの発達により、また、

データベース構造の技術革新により、言語の壁を

容易に超えることができた。


例えばネットワークゴーグルの着用により、

その言語の意味を他の複数の言語、複数の

表現で瞬時に表示したり、音声で読み上げたり

できた。


これは、言語そのものの習得にも役立った。

憶えた単語を実際に使う相手もたいていすぐに

見つかる。


テルオの家には入浴するための部屋もついて

いたが、頻繁に温泉にも通った。家から近い

場所にある温泉はいつも空いていて、

低温の湯船に長時間浮きながら思索するのが

近年の日常だった。

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