第16話 テルオの話

テルオはどんな時でも静かに微笑んでいるような

そんな少年だった。


親が警備会社を持っており、小さいころ家は裕福だった。

テルオが5歳のころ、もともといた第三エリアから

第2エリアへ家族で引っ越した。事業拡大だった。


最初の数年は非常に順調だった。拠点を増やすか

どうかという話も出ていた。


7年ほど経った頃、状況が変わった。

第2エリアの景気悪化とともに事業も悪化し、撤退。

現在は家族とも第三エリアに戻っているが、そこでも

業績が悪化。


今年から実家を出て一人暮らしをはじめた。


戸建ての借家であるが、実家からもそんなに離れていない。

家事を手伝いにいくからである。


家があるのは第三エリアのバームクーヘン型多層都市。

その最下層の農業区画にあった。


ドーナツ型のバームクーヘンから切り出した形のこの

都市は、一辺が100キロの巨大なものだった。

まったく同型がケーブルでつながれて対になって

お互いゆっくりと回転し、弱重力を作り出していた。


第三エリアには同型が数都市あるが、月の裏側にある

このエリアには他の空域と比較して多彩な都市構造

がある、というより太陽系にあるほぼすべての

タイプの宇宙都市構造がここにも揃っていた。


第三エリアには、同じ領土内に複数の国家が存在する。

住民は好きな行政サービスを選択する。つまり、

国家を選ぶ。


テルオの一家はコウエンジ連邦に属していた。


コウエンジは、地球上のある民族が住んでいた

土地に由来する。特殊な趣味を持った人たちが、

自分たちの趣味のための国を作りたい、そうして

始まった。今では一千億人を超える。


しかし、第三エリアで最大の人口を擁するのはユノ国

である。比較的地球から遠い位置にあるこのエリアで、

温泉業を始めたのがユノ国はじまりだった。


宇宙空間でも癒しを求めるひとが多いのか、建国以来

人口は急速に増えていった。コ連の人々が中心に

作り出す世界観や豊富なエンターテイメントも

人々を惹きつけるようだ。


テルオは日中家にいる場合、縁側を開け、香を焚いて

昼寝する。部屋は、草を乾燥させて編み、タイル状に

したマットで敷き詰められていた。外は住居もまばらの

農業地帯の、のんびりした風景だった。


そのあたりは、地面に水を張るタイプの農作物を

作るエリアであり、それもあってか少し蒸し暑かった。


最下層は、地面から光を入れ、上層側、つまり天井から

反射させつつ、発電による光でも補っていた。

しかしそれも1キロ上空のため青く霞んでいる。

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